夜を彩る3拍子の魔法
まだまだガキンチョ集団だったBerryz工房の2ndアルバム『第②成長期』からの1曲。“女子中学生の1日”をコンセプトとした本アルバムの“夜”の場面を飾る楽曲となっています。
本アルバム発売時のつんく♂大先生のコメントを見てみましょう。
つんく♂コメント
さあ、おやすみの時間って感じでしょうか?!
忙しい女子中学生の一日もおしまい。
今日の出来事も日記にしてもらいましょう。
今で言うところのプログってのですかね。
でも、あくまでもイメージは直筆の日記です。
誰にも見せないんでしょうね。
ワルツにチャレンジの彼女達です。カントリー調のワルツです。
「ブログ」を「プログ」と誤字る感じがなんとも可愛らしいつんく♂が描いた女の子のまどろみタイム。一日の終わりに綴られる誰にも見せない日記には、どんな事が書かれているのでしょうか。
そんな夜のまどろみを表しているように幻想的な3拍子で進行していく本楽曲。アコースティックギターのストロークや効果音的に用いられてるエレキギター。オーシャンドラムでしょうか?波の音も聴こえてきますね。
最小限の音数で、最大限に曲の世界観を表現しています。
思春期女子の夜のひと時
1番Aメロ
映画 見たら 影響された
なんか とりあえず 日記を 始めた
なんだかんだで 二年続く
意外と楽しい 時間なんです
子供の頃って本当に色々なものに影響されますよね。
私だって『SASUKE』を見た後にはタンスのヘリを掴んでクリフハンガーごっこしましたし、『ホームアローン』見た後は家にトラップ作りましたからね。
本楽曲の主人公の場合は、日記だったようです。
クリフハンガーなんか1日で飽きましたから、2年続くなんてすごいですわ。
ピアノで5分くらい練習すれば弾けちゃいそうな音数の少ないメロディが、3拍子と夜の穏やかさにハマっていて心地良いですね。優しく歌われるワルツなんてこの世に無数にありますが、どこからどう聴いても「ガキンチョ」といった感じの歌声が、楽曲に圧倒的なオリジナリティを与えています。
<とりあえず>の部分だけメロディを崩すところが、とりあえず感というか子供感が出ていて好きです。
忘れてしまう感情
1番サビ
いつか大人になった夜に
読んだりしたりして 泣いちゃうかな?
後に後悔しないような 青春にしたいけど
ウソだけ 書かない
不器用でもいいの 正直なら
アイドルソングを「子供が大人に歌わされている歌」と軽蔑し、嫌う人も多いです。特に昔の私のようなロック至上主義者には。
しかし「子供が歌うことで意味がある歌」、もっと言えば「大人が作り、子供が歌うことで意味がある歌」が確かに存在し、それがとても大きな感動を生むことを私はアイドルソングを通して知りました。
本楽曲にも、そんな感動が存在します。
小学生ほど無邪気でもない、でも高校生ほど”自己”に対する意識を持っているわけでもない。中学生という揺れ動く時期に「正直さ」を歌っています。
いつかこの日記を読み返す時に「最高の青春だったなぁ」と思いたいけど、ウソだけは書かないと心に誓う。
“大人になった自分”を想像しながら正直な言葉を書き連ねている彼女の姿からは、なんだかその無意識下に「大人=嘘」というイメージがあるようにも感じます。
どうでしょう、大人の皆さん。
周りに合わせるための嘘、楽しくもないのに営業先で見せる作り笑顔の嘘、そんな生活を「生きるためにはしょうがない」と納得させる自分への嘘。
悲しいけれど、大人は嘘つきな生き物なんです。
主人公の少女も、日々の生活の中でそんな大人の生態をなんとなくだけど、感じていたのかもしれません。
そんな”大人”という存在をほのかに意識しながらも、嘘をつかず、不器用でも健気に正直に生きようと心に決めたこの少女の姿のなんと強く、美しいことか。
私たち大人は、こんなガキンチョのつたない歌に、いつしか忘れてしまった気持ち、でも確かに自分も持っていたはずの気持ちを教えてもらうのです。
子供の考える大人
2番には、「万年筆」「コーヒー」と2つのアイテムが登場します。
どちらも“大人の象徴”として描かれていますね。
とてもステレオタイプな大人アイテムです。いかにも“子供が考える大人のイメージ”という感じで、なんとも微笑ましいです。
この微笑ましさは、大人という存在をほのかに考えるようなイメージの1番から、“自分が大人になる”ことを強く意識している2番において、その大人のイメージが“いかにも”なイメージだったことによる滑稽さから来ているのかもしれません。
2番サビ
いつか大人になった朝に
濃い目のコーヒー 一気に飲んで
陽気な笑顔絶やすことない
素敵なみんなで すごしてたい
日記に書いちゃおう 愛する人
1番サビでは<いつか大人になった夜に>でしたが、2番では<いつか大人になった朝に>と対比する小技がにくいでふ。「いやいや、大人でもコーヒー一気ではなかなか飲まないよ笑」なんてツッコミを入れたくなりますね。
そんな描写の後には、<素敵なみんなで すごしてたい>と未来の希望を綴っています。
1番では失ってしまった感情を思い出した我々大人。
さて2番で描かれる未来は、今のあなたと比べてどうでしょう。
実は、意外と素敵な人に囲まれた生活を送れているのではないでしょうか。
家族、恋人、友達だったり、こちらの住人にはある種何よりも貴重な存在である“ヲタ友”だったり笑。
この女の子にとっては遠い未来として描いている“大人”という存在に、もうなってしまった私たち。そして、この子の思い描く未来と意外と近い環境で生活することができている私たち。
無くしてしまったものはありますが、そんな自分の生き方は間違っていなかったんじゃないかと思わせてくれます。それなりに色々あったけど、何だかんだ捨てたもんじゃない人生かもな、なんてね。
さぁ、この子は「愛する人」として誰の名前を書いたのでしょうか。
家族でしょうか、友達でしょうか。
はたまた「不良っぽい転校生」でしょうか。
でも秘密の日記なんできっと、
教えまいーーーーーーーーーーーーーー
出会うタイミング
音楽は、初めて聴くタイミングによって印象が大きく変わると思います。
私が本楽曲を初めて聴いたのは大学生の時だったので、どちらかといえば“大人”の立場で聴くことになりました。そのため、上述したような感覚で本楽曲を味わうことしかできませんでした。
願わくば、この楽曲と一緒に大人になりたかったなと考えてしまいます。
なぜなら本楽曲は、つんく♂(大人)からBerryz工房のメンバー(子供)に向けて送ったメッセージであると思うからです。
メッセージのリアルな受け手の立場としてこの曲に触れてみたかったなと、自分の成長の側にこの楽曲があって、段々と歌詞の意味やそこに込められた思いを理解していきたかったなと考えてしまうです。
実際に、成長したBerryz工房のメンバーが自分でセトリを決められるバースデーイベントで、本楽曲をチョイスしているところからも、どこかで受け止め方が変わったのかな、と思わせてくれます。
「大人が作り、子供が歌うことで意味がある歌」
実は「アイドルソング」の一番の武器なのかもしれません。