すべてが止まった夏、『ファミえん』のない夏
2020年の夏、それはあらゆる面でいつもの夏とは違った。
新型コロナウイルスの感染拡大により、すべてのエンターテインメントは止まり、こと音楽ライブに関してはクラスターの温床として真っ先に弾圧される対象となってしまった。
この事実は“演者側”だけではなく、我々のような“音楽を享受する側”にとっても重くのしかかった。ある日突然、生きる目的、心の拠り所を奪われてしまったのだ。
アイドルファンにとって、夏は特に特別な季節だ。
TOKYO IDOL FESTIVALや@JAM EXPOという国内最大規模のアイドルフェスが開催されるのはこの季節であり、数々の新しいアイドルと出会わせてくれる貴重な場だった。
アイドル達も勝負曲も用意して本イベントに臨む。あの場所でしか味わえない興奮と感動がそこにはあるのだ。
そしてエビ中ファミリーにとっても、やっぱり夏という季節は特別である。
エビ中の夏には『ファミえん』があるからだ。
画像出典:エビ中 結成10周年、夏の恒例野外ワンマン「ファミえん」山中湖で開催 | ドワンゴジェイピーnews – 最新の芸能ニュースぞくぞく!
私立恵比寿中学の夏の風物詩『ファミえん』。正式名称は「エビ中 夏のファミリー遠足 略してファミえん」。
2013年から毎年開催されている本イベントは、“遠足”の名の通り都会ではなく、山梨県や新潟県など緑豊かな地方で行われる野外ライブだ。
我々エビ中ファミリーは、まさに遠足気分でこの遠征に胸を弾ませ、ライブはもちろん、各地の名物や美しい自然に触れることで夏を満喫する。
「中学生」というコンセプトだからこそ成立する、かけがえのないイベントだ。
そんな夢のような時間が、今年はなくなってしまった。あの灼熱の暑さも、あの水しぶきも、あの花火も、あの『いい湯かな?』も、なくなってしまったのだ。
気温は上がり、汗は滝のように流れ、日に日に増える蝉の死骸に、感覚上では確かに夏を感じているが、それでも季節から夏が消えてしまったような寂しい気持ちでいっぱいだった。
そんな日々を過ごす中で、エビ中からとっても素敵な夏が届いた。
私立恵比寿中学というか、私立恵比寿大学くらいになった彼女たちの初めて見せる姿。
やっと夏が始まった気がした。
そして、改めて私立恵比寿中学がくれた夏を振り返ってみたくなった。
そこでファミえんの歴代テーマソングを通して、『23回目のサマーナイト』に至る軌跡を考えようと思う。
2014年『ラブリースマイリーベイビー』
1973年。矢沢永吉率いるロックバンド・キャロルは<きみはファンキー・モンキー・ベイビー♪>と陽気に歌い、ヤンキー少年たちをロックンロールで熱くさせた。
それから約40年。革ジャンのいかつい男たちによる『ファンキー・モンキー・ベイビー』は、黄金色のセーラー服に身を包む少女たちによってぶち上がりアイドルソングへと形を変え、日本中のオタクたちを熱狂の渦に巻き込んだ。
そんなエビ中屈指のアンセムが、ファミえん最初のテーマソングである”ラブスマ”こと『ラブリースマイリーベイビー』だ。
小気味よいギターとハンドクラップで幕を開けるイントロ、ホイッスルが鳴り響く頃には僕らはもう“夏”に連れて行かれている。4つ打ちでビートを刻むバスドラの音色はまるで高鳴る鼓動のようだ。
明るいはずなのに、どこか寂しさや切なさを感じるギターフレーズ。これがフレーズの効果なのか、“夏”という季節から無意識に感じてしまうイメージなのかは分からないが、否応なく感情を刺激される。
ラブリーラブリースマイリースマイリーベイビー
君のその笑顔で
世界だって救って行けるはずだから…
人生において“推し”という存在に出会えた幸運な選ばれし人間であれば、誰でも一度は本気で、いやまじ冗談抜きでこう思ったことがあるだろう。
「この笑顔で戦争止まる」
そんなドルヲタ普遍の感情を、バカみたいな歌詞とバカみたいな振り付けでお届けしてくれるのが本サビフレーズだ。
一見するとキャッチーさに全振りした「ライブ盛り上げ用楽曲」に聴こえる本楽曲だが、本当にそうだろうか。明るく楽しい楽曲なのに、エビ中ファミリーの皆様は本楽曲でなぜか涙を流したことはないだろうか。
私は『ラブリースマイリーベイビー』がライブの起爆剤だけで終わらない、涙腺を刺激し、感情に訴えかけてくる楽曲である理由を、本フレーズ末尾の<はずだから…>に見出してしまう。
ただただ明るく楽しい楽曲にしたいのであれば、<世界だって救っていけるから>という断定で構わないはずだ。しかし、あえて<世界だって救っていけるはずだから…>という表現にしている。
つまり本楽曲は、単純なポジティブ楽曲ではない。
“願いの曲”なのだ。
そう考えて他の歌詞にも目を向けると、一貫して主人公は願っていることが分かる。
<君に会いたくなったよ>
<離れている君の街にも届いているかな?>
<落ち込んでばかりの日々も あるけど長くは続かないはず>
<みんなを繋ぐうた 君にも届いてるよね?>
本楽曲を聴いていて感じる寂しさや切なさの正体は、明るいサウンドに乗せて歌われる“願い”によるものなのだと思う。
“願い”は往々にして叶わないことがほとんどだということに、大人は人生を通して気づいてしまう。しかし、私立恵比寿中学はそんな無邪気な“願い”を全力の笑顔で我々にぶつけてくる。
その姿に、大人は心の中にしまい込んだ言葉にできない何かを刺激され、その感情は涙となって表出するのだろう。でもその涙は、きっと悲しみによるものではなく、なんだか懐かしく、心地の良い切なさによるものだと思う。
そんな笑いながら泣ける楽曲をきっかけとして、ファミえんに“テーマソング”という文化が生まれたのだ。
2015年『ナチュメロらんでぶー』
いまや私立恵比寿中学にとって欠かせない存在となったシンガーソングライター・たむらぱん大先生が、ファミえん2015のテーマソングとして書き下ろしてくれたのが『ナチュメロらんでぶー』だ。
2018年、山中湖で開催されたファミえん2018のDay2。この年のファミえんを締めくくる最後の最後の曲として選ばれたのは本楽曲だった。
世界中の笑顔がここにあるわ
あの日、あの瞬間。この歌詞が歌われたタイミングで涙がこぼれたのを覚えている。本当にその通りだと、一切の疑念なく思った。
まさにファミえんを象徴するような歌詞だ。
全国ツアーでもライブハウスでも、冬の大学芸会でもない。なぜだか分からないが、ファミえんにこそ相応しい歌詞だと思う。
特異な言語感覚によって綴られたストーリー性のない散文的な歌詞は、読めば読むほど頭が理解を拒絶する(心が亜脱臼…?)。しかし、夏の“ドキドキ”と“ワクワク”だけは十二分に伝わってくる。
一方サウンド面では、『ラブリースマイリーベイビー』と異なり、意外にも“夏”というイメージを分かりやすく形作るような音色が使われているわけではない。
ラブスマは、イントロだけで誰でも“夏”を連想できるような清涼感があるが、本楽曲では特に季節感を感じないのではないだろうか。
しかし、THE・夏というサウンドを局所的に使うことで、しっかりとファミえんテーマソングに相応しい、夏曲として成立させている。
そのサウンドとは、1番Aメロ後半パート、およびアウトロで鳴っているTHE・夏ギター「サーフギター」だ。“ベンチャーズの音”という説明が一番わかり易いかもしれない。
独特の気だるいサウンドと代名詞である“テケテケ”ギターは、1番Aメロ後半パートの裏で鳴っており、サブリミナル的に我々を夏に連れて行く。アウトロのトレモロアームによる揺らめくギターサウンドも、まさにベンチャーズ印といったフレーズだ。
Aメロとアウトロ。夏に始まり、夏で終わるというニクい演出により、局所的に“夏を使う”ことで、逆に夏を強く印象的づける結果になっているのだ。
また“夏”で終わる本楽曲を、ファミえんという名の“夏”の終わり、2018年ファミえんの最後の曲としてパフォーマンスされたということもニクいね。
2016年『summer dejavu』
ついに現役中学生はいなくなり、少しずつ大人へと近づいていった2016年の私立恵比寿中学。
そんな状況を表すかのように、これまでの楽曲とは異なり、グッと大人な雰囲気になったのがファミえん2016のテーマソング『summer dejavu』だ。
太陽サンサンな昼間の夏ではなく、じっとりとしたどこか物哀しい夏の夜を感じるようなミディアムバラードを作曲したのは、なんとMONDO GROSSOの大沢伸一。渋い。
アカシアの日暮れ 波のまにまにゆれた
あの人の前で 素直になりたい
幻想的な音作りや波の音により、我々を日暮れの砂浜へと連れて行く。
しかし、そんな音よりも我々に海をイメージさせるのは、寄せては返す波のように「Uh~Ah~」と歌うコーラスかもしれない。
「アカシア」とは、主に熱帯・温帯地域に分布する植物であり、黄色やオレンジ色の花を咲かせる。花の色によって花言葉は異なり、最も種類の多い黄色の花の花言葉は“秘密の恋”だ。
<あの人>に対する密かな想いを綴った本楽曲の詞世界を象徴するようなアイテムが、冒頭で歌われていたのである。
夜の向こう見慣れてるボーダーライン
デジャヴ繰り返しながら
本楽曲は、エビ中楽曲では珍しく全編ユニゾンで歌われている。メンバーの“個”は排除され、そこには“歌”だけがある。
幻想的なトラックや優しくも力強いメロディも相まって、私には夏の夜にどこからともなく聴こえてきた“妖精の歌”のように感じてしまう。
ある1人の主人公の歌ではなく、幾年もの夏を彩ってきた数多の“秘密の恋”を歌った歌に聴こえてくるのだ。
夏という特別な季節に繰り返される儚くも美しい恋物語。そんなイメージを『summer dejavu』という言葉で表現したのではないか、そんな風に考えてしまうのだ。
2017年『HOT UP!!!』
邦楽ならHi-STANDARD、Hawaiian6、locofrank…。洋楽ではGreen Day、The Offspring、SUM41…。ある年齢層のロック好きにとって、青春とメロコアは同義である。
つまり、“永遠に中学生”である私立恵比寿中学がメロコアを歌うことは必然なのだ。
ということで、「ぱりぱーりぃ!」ことTOTALFATの兄貴達がエビ中のために爆走疾走メロコアチューンを提供してくれた。それが2017年ファミえんのテーマソング『HOT UP!!!』だ。
これまでのエビ中楽曲において、アゲアゲなギターチューンといえば、おふざけ2ビート青春ソング『テブラデスキー~青春リバティ~』やHERE・尾形回帰による『春休みモラトリアム中学生』などがあったが、本楽曲はピアノやキーボードなどを排除した純粋なバンドサウンドだ。
直前に発売されたアルバム・エビクラシー収録の『君のままで』の堂々たる歌唱によって、純粋なバンドサウンドにも負けないことを証明したからこそ、爆音メロコアサウンドに挑戦できたのだと思う。
また2017年は、あの子が青空へと旅立った年でもある。
ファミえんは私立恵比寿中学にとって毎年の恒例行事だ。いつも同じだから恒例行事なのであり、いつもと同じでなくなった瞬間に恒例行事の看板は崩れ、純粋に楽しめるものではなくなってしまう。
今年のファミえんに彼女はいない。
それでも前に進むことを選んだ私立恵比寿中学にとって必要な楽曲は、私立恵比寿中学の原点である“中学生”に立ち返り、頭を空っぽにしてバカになれる楽曲だったのだろう。
美しく詩的な表現も難解な比喩も必要ない。
今年のファミえんに必要なのは<Fly highテンション、フィーバーでParty!!>だ。
あぁあの頃の私たちはきっと
大切な事を見失っていたね
あぁこれからは誰にも負けないよ
あなたがくれた魔法 光の挿す方へと
私立恵比寿中学は、ファミリーと一緒に光の挿す方に向かってくれるんだ。
2018年 ①『イート・ザ・大目玉』
2018年のファミえんは初の2days。一方で、会場は第2回(2014年)と同様の山中湖交流プラザ きらら シアターひびきでの開催となり、新しさと原点回帰の両方が感じられるような年となった。
2daysに合わせてかテーマソングも初の2曲となり、ファミえんを象徴するような「バカ騒ぎ」と「感動」を表現したような楽曲が与えられた。
1曲目はファミえんの「バカ騒ぎ」を象徴する爆湧きソング『イート・ザ・大目玉』だ。
AKB48『言い訳Maybe』とSUM41『The Hell Song』をかけ合わせたような、印象的なリフが全編を支配するギターチューンである。
作詞は元SUPERCARのギタリストで作詞家・音楽プロデューサーのいしわたり淳治が担当。中学生が歌うに相応しい悪ガキ感たっぷりな歌詞に仕上げている。
演奏陣も盤石だ。ギターにはハードコアバンド・ヌンチャクのギタリストで本楽曲の作曲編曲も担当している溝口和紀、ドラムには彼とともにLUNA SEAのベース・Jのソロ活動をサポートしているBACK DROP BOMBの有松益男、そしてベースにはシドの明希という布陣である。
V系から音楽にハマった<先天性のVでSorry!>な私にとっては、極上のメンバーになっている。
曲の方は、ライヴとかフェスでお客さんに、イントロ&Aメロでツーステ、展開のモッシュパート(死語)で鬼ヘドバンを炸裂させて欲しいなーと思い、あんな感じのアレンジにしました(ウォールオブデスのポイントも作りたかったのですが……笑)。
作曲編曲の溝口氏が上記のように語っている通り、完全にライブを見据えた曲展開になっている。
また特徴的なのは、全編ハモリのツインボーカルで歌われている点だ。技術的にとても難しい試みだが、今のエビ中なら歌いこなせる。
もちろんハーモニーとして美しく、単純な盛り上げソングで終わらない深みを曲に与えるが、ステージで両者が向かい合いながら激しいアクションと共に歌い上げる姿は視覚的にもキマっており、この点においてもライブを意識した楽曲であると言えるだろう。
2018年 ②『朝顔』
詩の朗読が入ったらかっこええのじゃないか!と思い、2ヶ所朗読が入っております。IMAKISASAさん作曲で、夏の終わり胸に刺さる最高にエモーショナルな曲になっています。是非聴いてみてね。
出典:私立恵比寿中学に歌詞提供 | 高橋久美子公式ホームページ -んふふのふ-
本楽曲を作詞した元チャットモンチーの高橋久美子さんが上記のように語っている通り、『朝顔』は『イート・ザ・大目玉』とは打って変わった、アップテンポながらも心に染み渡ってくる優しい楽曲になっている。
そして『えびぞりダイアモンド!!』や『幸せの張り紙はいつも背中に』を彷彿とさせるようなセリフパートが挿入されている。しかし、上記で高橋久美子さんが「セリフ」ではなく「朗読」と表現しているように、これまでの楽曲とは少し毛色が異なる。
その違いはバックトラックに表れている。これまでの楽曲におけるセリフパートでは、その言葉を際立たせるためにバックトラックの音数が減り、“セリフのための音楽”へと変化させていた。
対して本楽曲では、そのような配慮はなく、ほかのメロやサビと同様のバックトラックが流れている。「朗読」と「歌」が地続きのものとして表現されているため、お互いの相乗効果でより感情に刺さる楽曲となっているのだ。
言葉にできない言葉に埋もれて
大人になるのでしょうか
“中学生”がグループコンセプトである私立恵比寿中学にとって、“大人になる”という事象は様々な楽曲でモチーフとされており、私立恵比寿中学という活動における大きなテーマになっていると思う。
本楽曲の主人公も、<小6の夏休み 約束してたこと>で過去を、<今の自分を 真っ直ぐに見つめていよう>で現在を、そして<未来は足元に転がるよ>で未来を意識しながら、少しずつ成長し大人になっている。
そのキーアイテムが「朝顔」だ。
<私の痛みを吸って咲いたような>というフレーズから分かるように、主人公には上手くいっていない現状がある。<また恋をしようよ>という部分から察するに、恋愛なのかもしれない。
そんな中で、太陽の光ではなく蛍光灯の光で花を咲かせる朝顔に自分を重ねた。
ほかの朝顔とは違い、夜に咲いた朝顔。そして、ほかと違うことにも気づいていない朝顔。とても滑稽で恥ずかしいことのように映るそんな光景に主人公は心を動かされた。
今宵も朝顔 元気に
街灯に笑ってんだ
ルールなんてないから自由に咲けと
咲くことができず、時間の経過に怯えていた主人公は、だまされているとも気づかず綺麗に綺麗に綺麗に咲いた朝顔を見て気づいた。
時間も場所も関係なく、人間はいつだってどこだって咲くことができるということに。だって<太陽はいつも 心の中にあるから>。
未来は足元に転がるよ
サイダーを飲みながら進もうか
下を向いて立ち止まってしまう時があったっていい。花は足元に咲いているし、未来だって転がっているんだ。
さぁサイダーを飲みながら夏祭りにでも出かけよう。きっと今年の彼女は金色の出ないくじ引きなんてやらないだろう。
大事なのは与えられるものではなく、自分の心の中の太陽だって気づいたから。
2019年『青い青い星の名前』
現時点でのファミえん最後の開催となっている2019年。そのテーマソングが『青い青い星の名前』だ。
『君のままで』から始まり、『HOT UP!!!』『自由へ道連れ』とエビ中の新たな武器となっている真っ直ぐなロックミュージック。その系譜に位置する本楽曲も、夏の青空が似合う爽快なギターロックになっている。
作詞は『朝顔』に引き続き、元チャットモンチーの高橋久美子さん。その世界観は渋谷区恵比寿を大きく飛び出し、宇宙規模にまで広がった。
輝く未来の真ん中で 僕らは何を願うだろう
遠くで泣いてる あの子の明日を
変えられるのは 僕らかもしれない
ファミえんテーマソングの始まりとなった2014年の『ラブリースマイリーベイビー』。本記事において、私は本楽曲を“願いの曲”だと書いた。そこから5年という節目で、再び“願いの曲”がテーマソングになったことに、なんだか感慨深い気持ちになってしまう。
そして、その願いはどちらも“世界”に向けて発せられているものだ。しかし、その願いを叶える方法が5年間で大きく成長した。
『ラブリースマイリーベイビー』では、<君のその笑顔で 世界だって救っていけるはずだから>と歌った。世界を救うのは“他者”であり、<君>なら救えるはずだと願う歌だった。
一方で『青い青い星の名前』では、<変えられるのは 僕らかもしれない>と世界を救うのは“他者”ではなく“自己”に変わった。
まるで人に頼るのが当たり前だった子供が、自分で物事を考えていく大人へと成長するように、ファミえんのテーマソングを通して、私立恵比寿中学は彼女たち自身の成長を見せてくれたのだ。
だんだん狭くなる海岸で 口笛吹けば夏の香り
今年も来るんだなあ ウルトラ猛暑楽しいだけじゃ ものたりなくて
本当のこと教えてください
地球温暖化により海水面が上がり、だんだんと狭くなっていく海岸。そんな世界の現状まで考えを及ばすようになった彼女たち。
楽しいだけじゃものたりない。汚いもの、悲しいもの、恐ろしいもの…。そんな目を背けたくなるような世界の現実を<本当のこと>と捉えるのであれば、それを望むということは、彼女たちがまたひとつ“大人になった”ということだろう。
アルバム・大穴に収録されている名曲『ポップコーントーン』には、<あー前より少しは大人になったけれど その分少しだけ世界が怖くなった>というフレーズがある。
なんだか本楽曲とのリンクを感じてしまうフレーズだ。
『ポップコーントーン』で世界の怖さを感じ始めた彼女たちは、『青い青い星の名前』でその恐怖と対峙し、考え、自分の中での答えを探し始めたのだろう。
本楽曲で歌われているのは、言ってしまえば夢物語であり、綺麗事だ。
それでも、日本各地に遠征し、その土地々々の自然や食、人と触れ合うことができる“ファミえん”のテーマソングなのであれば、そんな夢物語を大声で歌うべきだし、そんな綺麗事を信じるべきだ。
そして、そんなクサイことを届ける音楽はやっぱりロックしかない。私はそう思う。
2020年『23回目のサマーナイト』
ここまで、全7曲のファミえんテーマソングを振り返ってきた。
毎年発表されるテーマソングだからこそ、各楽曲を辿っていくことで私立恵比寿中学の様々な成長が見えてきたと思う。
そして2020年、『23回目のサマーナイト』である。
女心の魔術師・児玉雨子によって綴られた歌詞、そしてMV。1人の大人の女性として成長した彼女たちだからこそ歌える歌。見せられる笑顔。
私立恵比寿中学は、その時々のメンバーの年齢やグループの置かれた状況などに合わせた“オーダーメイド”の楽曲を歌うアイドルグループだ。つまり、楽曲とともに成長していく存在なのである。
そんな存在の彼女たちだからこそ、『えびぞりダイアモンド!!』から始まった私立恵比寿中学が、こんな楽曲を歌えるようになったということだけでも意味深く、感動的なのだ。
今年で 23回目のサマーナイト
もう今夜の素肌は冷めない
まだまだ帰れない
少し妄想の羽を羽ばたかせて、“23”という数字を頼りに本作の主人公は『朝顔』の主人公と同一人物説を唱えてみよう。
「23歳になったら結婚しよう」という少年との約束を思い出した『朝顔』。そんなことを思い出したのも、きっと自分がもうすぐ23歳を迎えるからなのだろう。そして彼女は、傷ついた今の恋愛を乗り越え、自分らしく咲くことを決めた。
そして迎えた23歳。新しい恋のお相手は、ちょっと奥手なシャイボーイ。自分らしく咲くことを決めた彼女はもう迷わない。強気だ。
「もぉ…このあと、どうすんの!?」
「これ以上、わたしに言わせないで~!」
幸せそうで何よりです。めでたしめでたし。
『ファミえん』への願い
https://twitter.com/ebichu_staff/status/1389901527062614016?s=20
2021年5月5日。私立恵比寿中学は新メンバー3名を加え、9人組アイドルグループとなった。
そして彼女たちの初舞台は、2021年8月21日の『ファミえん』に決定した。会場は2020年の『ファミえん』を開催予定だった横浜赤レンガ倉庫。2020年の悔しさをぶつけるにはもってこいだ。
私立恵比寿中学が私立恵比寿中学たる所以のような『ファミえん』というイベントで新メンバーを迎えるというのは、新メンバーにとっても、我々ファミリーにとっても大きな意味があることだと思う。
これまでのように自然を楽しんだり、グシャグシャになってみんなでバカできるような『ファミえん』的なライブではないかもしれない。
それでも『ファミえん』の冠を止めなかったことには、『ファミえん』にかける強い意志や想いを感じる。きっと運営サイドにとっても『ファミえん』は大きな意味を持つイベントなんだと思う。
色々な意味で、2021年の『ファミえん』は、後にも先にもない特別なものになるだろう。
このままコロナが落ち着いて、今年こそは、それぞれ『●回目のサマーナイト』をエビ中と、そしてファミリーのみんなと過ごせることを切に願う。
ジャンルごとリンクまとめ
・「ハロプロ」に関する記事一覧
・「私立恵比寿中学」に関する記事一覧
・「K-POP」に関する記事一覧
・「その他アイドル」に関する記事一覧
・「バンド/アーティスト」に関する記事一覧