【レビュー】9mm Parabellum Bullet『Termination』-始まりのカオス-

【レビュー】9mm Parabellum Bullet『Termination』-始まりのカオス-

画像出典:Termination [SHM-CD][CD] – 9mm Parabellum Bullet – UNIVERSAL MUSIC JAPAN

すでに完成しているオリジナリティ

2000年代後半より、邦楽ロックシーン(とりわけフェスシーン)を牽引した4人組ロックバンド・9mm Parabellum Bullet。初のフルアルバムが本作『Termination』だ。

彼らの音楽性が紹介される際、多くの場合“カオティック”と表現されている。ハードコア、メタル、パンク、オルタナなどをごちゃごちゃにかき混ぜて、性急なビートで調理した爆発的なサウンド。

そこに90年代ヴィジュアル系を通過した世代だからこそ取り込める、匂い立つ妖艶さ、怪しさ、暗さを二さじほど加えて、日本的歌謡曲メロディを振りかければ、9mm Parabellum Bulletが完成するのだ。

うん。確かにカオティックと表現して差し支えないだろう。

そして本アルバムでは、初のフルアルバムながら上記のようなサウンドがすでに完成しているのだ。今から約15年前(マジかよ)の作品だが微塵も古さを感じないのは、そのオリジナリティが確立されているからに他ならない。

彼らの最高傑作に本アルバムを推すファンも多いことが頷ける、2000年代邦ロックシーンを代表する名盤だ。

フェスシーンの覇者となった理由

私が9mmのアルバムを初めて聞いたのは次作『VAMPIRE』からだ。

メタル好き、V系好きにも刺さる要素がたんまりあったので好きなアルバムになったが、「9mmは初期が至高」的なネットの声を信じ、『sector』とか『Talking Machine』とかを聴いた流れでTSUTAYAにレンタルに行った記憶がある。

本記事を書くにあたって改めて聴き直してみたが、やっぱ単純にカッコいい。確かに“カオティック”ではあるが、しっかり音楽としての整合性は取れていて、計算されて作られた楽曲たちだと感じた

フェスシーンを駆け上がったバンドなので、盛り上がりやすいようハンドクラップできるパート、ツーステップ踏めるパート、モッシュできるパートなど各種ギミックは存在する。

しかし有象無象のロックバンドが、ただフェスの場を盛り上げるために作ったフェス用楽曲とは異なり、あくまでも楽曲に導かれて発生したギミックになっていると感じるのだ。

それだけギミックが浮かずに、楽曲を構成する大事な要素として取り込まれている。

日常と非日常を行き来するようなヴォーカル・菅原 卓郎による歌詞世界も見事だ。

時に哲学的に、時に野蛮に、時に退廃的に心を抉ってくるような表現は唯一無二。フェスシーンには、英語詞を中心としたメロコア勢やメタルコア勢なども多く存在した中で、日本語にこだわっている点も彼らの人気に繋がったはずだ。

ピックアップフレーズ

適当な相槌の腕と品を上げて
嘘でもない本当でもない愛を探す
♯2『Discommunication』より

限りが有るというのなら
あらゆるものは無駄遣い
♯4『Sleepwalk』より

監視カメラから抜け出した
革命家達は今どこに
国境の河を渡る時
ためらったロバは天国に
♯8『Battle March』より

ピックアップ楽曲①『Discommunication』

言わずとしれた彼らの代表曲の1つ

キャッチーなイントロからなだれ込む中毒性抜群のギターフレーズ、そして裏打ちのリズムが身体中の細胞に「踊れ!」と命令してくる。フェスで盛り上がること必至のダンスビートだ。

しかし「絶対こいつメタル好きじゃん…」ってなるAメロ裏のズックズクブリッジミュートや時折差し込まれる突飛なフレーズ、シンガロング必死の哀愁メロディが凡百のフェス用4つ打ち楽曲とは異なることを教えてくれる。

そしてラストは恍惚のカオスへ…

あの日のモッシュピットを思い出しますなぁ…。

 

ピックアップ楽曲②『Termination』

“哀愁”としか表現しようのないリフが、切迫感のあるビートによってなぜか“緊迫感”を作り出す彼らの十八番のような楽曲。

ダサさのギリ一歩手前で引き返す絶妙なバランス感覚が、9mm独自のかっこよさに繋がっているからあっぱれだ。

現実の風景なのか、それとも空想上のものなのか。独特な情景描写がどこまでも想像力を掻き立てる。

<簡単な永遠を数え終わる頃 明日だけが人間の持ち物>なんて、ラストアルバムで辿り着く境地なのでは???

「終端」を意味する『Termination』という曲名を持つ、アルバム表題曲に相応しい楽曲。ラストフレーズは<最後の駅の向こう 何から始めよう>

彼らは終わることから始めたのだ

 

ピックアップ楽曲③『The World』

9mm Parabellum Bullet流の8分の6拍子。

彼らが“世界”を奏でるとこんな曲になるのだ

ギターフレーズ、そして時に裏声も交えた歌メロにお得意の哀愁をたっぷり込めながら、今のこの“世界”を否定も肯定もせずにただただ目の前の現実を見つめている。

他の爆発的な楽曲に比べると地味な印象かもしれないが、さらに先に進んでいくために、最初のフルアルバムで“世界”を定義する必要があったのだろう。

数年後、3枚目のフルアルバムのラストを飾る『The revolutionary』で<世界が変わっても おれはおれのままさ>と歌う彼らに繋がる重要な楽曲だ。

 

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