【アルバムレビュー】TWICEが『Eyes Wide Open』で失ったもの

【アルバムレビュー】TWICEが『Eyes Wide Open』で失ったもの

アダムとイブとTWICE

 

TWICEが“禁断の果実”を口にしてまで欲したものは、変化だった。

 

前作『MORE&MORE』MVのラストシーンと繋がるティザー映像は、本作が『MORE&MORE』の延長線上にある作品であることを予感させた。

歌詞の世界観に合わせて、欲望の象徴として描かれた“禁断の果実”。ヘビの甘言に惑わされ、その実を口にしてしまったアダムとイヴは、その代償として楽園を追われることになった。

 

『I CAN’T STOP ME』

 

自分の欲望を抑えられず、思うがままに行動をしてしまう。そんな“人間の罪”を描いた「創世記」のエピソードは、ティザー公開時点では曲名しか明かされていなかった本楽曲や、アルバム全体像への期待を大いに掻き立てた。

そして実際に本楽曲およびアルバム全体を聴いた時、我々はこのモチーフの本当の意味を知ることになる。

“禁断の果実”は、アダムとイヴに羞恥心という概念を与えたように、TWICEにも大きな変化を与えた。

そしてその変化は、アダムとイブが楽園を追われたように、彼女たちにも相応の代償を与えたのだ

 

“TWICE”がいないアルバム

「TWICEは本アルバムで変化した」と書いたが、何もこれまでTWICEが変化をしていなかったわけではない。

音楽性で言えば、アメリカンポップスを基調としたサウンドを軸としながらも、『JALJAYO GOOD NIGHT』ではボサノヴァ、『MORE&MORE』ではトロピカル・ハウスなど多様な音楽性に挑戦をしていた。

しかし、その根底にあるコンセプトは一貫して、「好き好き!チョアヨ!サランヘ!」なアイドルど真ん中の世界観だった。それもそのはずだ。だってTWICEが死ぬほど可愛いから。もう一度言う、死ぬほど可愛いから。

誰だって可愛い子に「好き好き!チョアヨ!サランヘ!」って言われたら嬉しい。クィヨウォヨ!イエッポヨ!なダンスを踊られたら疲れなんて吹っ飛ぶ。当たり前だ。こんなことJYPでも分か…、あ、猿でも分かる。

『TT』『CHEER UP』『LIKEY』といった彼女たちの代表曲はそんな“ガール・ミーツ・ボーイ”的なコンセプトを十二分に推し進め、結果的にTWICEを世界的なアーティストに導いた。

 

確かにTWICE楽曲には多くの音楽性がある。しかしそれは、核となる“可愛いというコンセプト”を軸として広がっていったものだ。

これは多くのミュージシャンに共通することで、それぞれ大事な核、言い換えるなら“個性”をもとに音楽性を広げていく

小手先の音楽性よりも、この“個性”が何よりも大切なのだ。音楽だけなら世界中に溢れている中で、圧倒的な“個性”だけは唯一無二なのである。

画像出典:TWICE初のドームツアーが映像化

 

翻って本アルバム『Eyes wide open』だ。

 

音楽性で言えば、全体を通してブラックミュージックに比重を置いた横ノリのサウンドメイクがされている。

ブラックミュージックと言っても、JBに代表される男臭い熱気ムンムンなファンクサウンドではなく、シンセやピアノといった上モノの主張が強い重心の軽いシャレオツサウンドだ

この音楽性も大きな変化だが、それよりも重大な変化がある。

 

“可愛さ”が無いのだ。

 

そしてこの個性に付随するポップでキャッチーな楽曲がどこにもないのだ

本アルバムには『Candy Pop』も『BDZ』も『What is Love?』も収録されていない。TWICEの代名詞である一聴して耳に残るポップでキャッチーな楽曲が1曲もないのだ。

 

つまり、TWICEは本アルバムで“個性”を捨てたのである。

 

画像出典:TWICE、2ndフルアルバム「Eyes wide open」予告イメージ公開…クラシックな衣装に注目

 

これはとんでもない変化だ。ミュージシャンにとって何よりも大切なものを捨てたのだから。

活動初期であれば様々なコンセプトを試し、方向性を探っていくことは良くある。“国民の妹”こと韓国のトップミュージシャン・IUだって、初期の本格派売りからアイドル売りに切り替えてスターダムに駆け上がった。

しかし、TWICEはすでに馬鹿みたいに売れている。そんな危険は犯す必要は全く無い

 

ではなぜ彼女たちは、こんな苦難の道を選んだのだろうか。

 

変化を選んだ2つの理由

TWICEの変化の理由。

その1つには、“コンセプトと年齢の乖離”が考えられるだろう。

TWICEは、2020年10月で結成5周年を迎えた。5年、歳を重ねたということだ。

デビュー当時はティーンだったメンバーも、今では最年長25歳から最年少21歳と大人の女性に足を踏み入れている。そんな中で、いつまでもティーンの青い恋愛ソングを歌うことは自然なことではない。

もちろん我々ONCEとしては、そんじょそこらのティーン・アイドルなんてキャンディ棒で木っ端微塵に蹴散らすくらい、まだまだ余裕で可愛い彼女たちにはいつまでもポップソングを歌ってほしい。

しかし当事者の彼女たちにとっては、成長した自分の心と歌っている楽曲に対する乖離を感じる瞬間が必ずあったはずだ。

近年では作詞にも関わっている彼女たちである。より等身大の楽曲を届けたいという思いと、与えられたコンセプトの板挟みの中で苦しんだこともあったかもしれない。

 

本アルバムに関するインタビューで、ミナが印象的な言葉を残している。

ミナ:TWICEがこれまでの活動で一度もお見せしたことのない危うくて不安な感情を歌いました。誰もが明るい面と危うい面を同時に持っているでしょう。今回のアルバムを通じてTWICEの他の面はどうなのか見守っていただければと思います

出典:カムバックを控えたTWICE、ニューアルバムへの意気込み語る【一問一答】

 

これまでのTWICEが明るくてポップな“白”のイメージであるとしたら、それとは対極にある危うくて不安な“黒”の感情。

5年という節目を迎え、この先の5年、10年を考えながら活動していく中で、どこかのタイミングで表出せざるを得なかった新たな側面。どうしても必要な変化のタイミングが、今この時だったのだろう

人間としてあまり表には出したくない感情。明るさ、清純さが求められるアイドルという立場であれば尚更だ。

しかしより長い間、ファンに寄り添うアイドルとして活動していく方法を考えた結果、より自己をさらけ出すことを選んだのである

 

HELL IN HEAVEN
どんどん崩れていく
だんだん黒く染まっていく

UP NO MORE
深い闇に染まった今夜一人で
まだ明るい私の一日を終われずにいる
また一人ぼっちは不安で怖い
私だけの闇が

HANDLE IT
乾いた私の目に風が吹いて冷たくて
無理に我慢してた涙が流れる
大丈夫だと言って

訳出典:まみんのブログ

 

この大きな変化を、ミナは彼女らしい<見守っていただければと思います>という言葉でONCEに伝えたのだ。我々は、そんな彼女たちを“目を見開いて”見守るしかない。

 

画像出典:TWICE、6/1にカムバック決定! 新曲タイトルは「More & More」・・ネット上ではメンバーの女神級ビジュアルに称賛集まる

 

そして、この変化のもう1つの理由は“より幅広い支持層獲得のため”だろう。

 

音楽性を変えるということは、これまでTWICEに興味がなかった層へもアプローチができるということだ。

歴史を振り返っても、音楽性を変えることでより大きな成功を収めたミュージシャンは多く存在する。

メジャーデビューアルバム『Dookie』の爆発的なヒットにより、“ティーンのためのパンクバンド”として一躍スターの座に上り詰めたGreen Dayは、約10年の時を経て、“反戦”を掲げ、時のブッシュ政権を批判した政治的なアルバム『American Idiot』を発表し、『Dookie』を上回る成功を手にした。

『The Bends』で内省的で激しくも美しいロックバンドとして確固たる地位を気づいたRadioheadは、『Kid A』においてギターサウンドを完全に放棄し、エレクトロニカを主軸とした唯一無二の音世界を構築したことで、他の追随を許さない孤高の存在となった。

 

K-POPにおいても同様に、今や時代の寵児となったBTSも、ハードコアなHIP HOPサウンドからよりメロディアスな方向性を取り入れていくことで着実に人気を獲得し、遂には全編英詩の『Dynamite』をドロップしたことでビルボード1位を獲得。世界の頂点に立った。

このような多くの先人の背中を見ながら、TWICEも大きく舵を切ったのだろう。

 

本アルバムが目指した方向性

次の議題は、数多ある音楽ジャンルの中でなぜ今回のサウンドに決めたのかということだ。

 

これを考えていく上で重要なポイントは、TWICEが“アイドル”であるという点である。

ここで言う“アイドル”とは、“ミュージシャン”と区別する上での呼び方だ。つまり、自己の表現欲求の赴くままに作品を作り出す存在ではなく、楽曲・ダンス・コンセプト等をトータルでプロデュースされる存在であるということである。

そうなると、彼女たちの方向性を(事務所が)考えていく上で、マーケティング的な要素も多分に絡んでくるだろう。

韓国の音楽市場、世界の音楽市場、TWICEの強み・弱み、自社の強み・弱み…。ミュージシャンの持つ音楽的欲求ではなく、市場のニーズを見据えた上での、感覚的ではない論理的かつ戦略的な方向転換である。

 

画像出典:パク・ジニョン Instagram

 

それではまず、現在のK-POPシーンに目を向けてみよう。

どの音楽番組を見ても、出演アーティストは圧倒的にアイドルグループが多い。まぁ腐るほどいる。

その中で独自のコンセプトを持ち、その個性を楽曲へと昇華したグループがトップグループとして抜け出していくわけだが、大雑把にカテゴリ分けすると「可愛い系」と「カッコいい系」の2種類に分けられるだろう。これに音楽性も付随していく。

「可愛い系」の大本命はもちろんTWICEだ。他の追随を許さない圧倒的な顔面とVLIVE等で見せる親しみやすさ、そして何よりポップでキャッチーな楽曲でトップアイドルの座にのし上がった。ここにOH MY GIRLやfromis_9といったグループが続く。

一方の「カッコいい系」で頭3つ分くらいずば抜けているのは、BLACKPINKだろう。その“ガールクラッシュ”な魅力には、女性だけではなく男性もビビり散らかす。ムーンバートンを基調としたサウンドが4人のカリスマ性に拍車をかける。

 

 

こちらの系譜では、よりダークな方向性の(G)I-DLEやDREAMCATCHER、もうなんか勝てる気がしないMAMAMOOなどが人気だ。

またザ・アイドル路線からゴシック路線にシフトチェンジしたRed Velvetや、幻想的な音世界に可愛さもカッコよさも詰め込む独自路線のIZ*ONEも、圧倒的な支持を集めている。

 

さて、女性アイドルシーンの現状をかなり乱暴ではあるが整理してみた。

次はいうなれば“内部のシーン”。つまり、所属事務所・JYPエンターテインメントの中の女性アイドルについてだ。

エンターテインメントの世界とはいえ、会社は会社。予算には限りがあり、選択と集中によって注力事業を冷静に判断していかなければならない。

つまり、同一事務所内に似たようなコンセプトのアイドルは必要ないのである。

 

現在、JYPにはTWICE以外の女性アイドルが2組存在する。ご存知、ITZYとNiziUだ。

ITZYは、BLACKPINKとTWICEのいいとこ取りをしたような音楽性で、まさにガールクラッシュとったルックス&詩世界ながら、メロディやダンスの随所に可愛さ成分を組み込むという高度なテクニックにより、オリジナリティのある楽曲を作り出している。

NiziUは、まだまだ持ち曲が少ないのでなんとも言えないが、『Make You Happy』から考えるに、しばらくは「可愛い系」の路線でいくのだろうと推測できる。

となると、K-POPシーン全体の前に社内事情から考えるだけで、意外にもTWICEに残された道は少ないことに気がつくだろう。

 

事務所として「可愛い系」は今後NiziUに振り切っていくだろう。対してITZYはどちらもバランスよく取り入れることでオリジナリティを作り出している。それではここで思い切って、「カッコいい系」への大幅な切り替えはどうだろうか。

もちろん候補としては考えられただろう。しかし、ここで大きな壁になるのがメンバーの“声質・発声”の問題だ。特にラップ担当のチェヨンと(愛する愛する私の推しことエンジェル・オブ・ザ・ワールド)ダヒョンの“声質・発声”である。

画像出典:「初めて会った時は14歳だった」・・・TWICE ダヒョンとチェヨンが練習生時代を振り返る! 8年の絆が伝わる優しい気遣いにほっこり[動画あり]

 

カッコいい系楽曲において、ラップは花形とも言える。今でこそ女性ラッパーは数多く存在し、BLACKPINKのアルバムにも参加したCardi Bを筆頭に世界的な成功を収めている女性ラッパーも存在するが、歴史的に見るとまだまだヒップホップはゴリゴリの男性文化だ。

そのため、“女性がカッコいいラップを歌えること”は、K-POPのガールクラッシュシーンにとって重要なポイントになる。

BLACKPINKや(G)I-DLEのラップは、ラップ担当の声質や粘り気のある発声、ルックスや表情を含むトータルの空気感によって圧倒的なカリスマを放っており、そりゃもう超絶カッコいい。

一方で、チェヨンとダヒョン・ザ・エンジェルの声質は、どちらかといえば柔らかく優しい質感を持っている。楽曲がそうさせる部分もあるが、レイドバックしたタメを作ったり、がなりを入れたりするタイプでもない。確実に音を置いて、耳に心地よく入ってくるタイプのラップスタイルだ。

ラップではなくメロディを歌う場合は、“コード感”や“メロディが持つ作用”により、声質に依存せずにカッコいい雰囲気はある程度作ることができる。

しかしラップの場合、フロウはあれどメロディほど誤魔化しがきかないため、カッコよさが声質や発声に依存する割合が多い。

そのため比較論で言うのであれば、TWICEが「カッコいい系」にシフトした場合、残念ながらBLACKPINKや(G)I-DLEほど“様にならない”と考えられる。ここには、これまでの5年間との大幅な差異による“違和感”という面もある。可愛いかった5年間で作られたパブリックイメージが足かせとなっているのだ。

 

さて困った。「可愛い系」も「カッコいい系」もダメなら八方塞がりではないか。

 

う~ん。どうしたものか。

 

…。

 

…いや待てよ。

 

「カッコいい」ってそんなに単純なものだっただろうか。

 

派手で奇抜な格好、男勝りなラップ、圧倒的な自己肯定…。“女性が憧れる女性”を表す「ガールクラッシュ」という言葉と共に、K-POPシーンを席巻している本コンセプトは、視覚的にも詩によって描かれるメッセージ的にも確かに分かりやすい。

「カッコいい」という言葉で形容することに、違和感はないだろう。

 

でも「カッコいい」ってそれだけじゃない。

 

例えば、最近「2020ユーキャン新語・流行語大賞」にもノミネートされた韓国ドラマ『愛の不時着』の主人公ユン・セリは、女性からの支持を集め、“憧れの女性像”として愛されるキャラクターになった。

 

画像出典:ドラマ「愛の不時着」に輝きを添えるスワロフスキー・ジュエリー

 

では彼女に、K-POPにおける「ガールクラッシュ」という形容が当てはまるだろうか。

確かに“憧れの女性像”なのだが、この形容には違和感を感じるのではないだろうか。

確かに、彼女には“強さ”を感じる。

でもその“強さ”は、「ガールクラッシュ」と表現されるような派手で分かりやすい“強さ”ではない。

 

内に秘めた“弱さ”すらも魅力に変える、凛とした“強さ”だ。

 

私は、この“弱さを秘めた強さ”こそがTWICEが本アルバムで目指した方向性であり、禁断の果実を口にし、多くの代償を払って手に入れた姿であると思っている。

 

コンセプトを具現化する音

BLACKPINKのような派手で分かりやすいカッコよさでも、(G)I-DLEのようなダークで蠱惑的なカッコよさでもない。

 

男性では表現できない、女性の女性らしいカッコよさ。

私はそれを“弱さを秘めた強さ”と表現したいと思う。

 

生きていたくはないけれど
死にたくはないって
慰めてもらいたかっただけ

 

上記は『愛の不時着』の中で、自殺を考えていた主人公ユン・セリが心の中でつぶやいたセリフであり、私が作中で最も印象的だったセリフだ。

弱い心の内を見せたセリフだが、一方で私は、自身の心情を言語化し、自分の中の弱さを極限までさらけ出したこのセリフにとても強さを感じた。

 

“女々しい”の一言で片付けられてしまう男性にとって、“弱さ”を“強さ”とする表現は非常に難しい。逆に“女々しさ”が魅力になるのが男性の表現だ。

男性アーティストのヒットソングを思い返してみてほしい。大抵は最高に女々しい。サザンの『TSUNAMI』なんて<見つめ合うと 素直に お喋り出来ない>だよ。バッキバキに情けないじゃん。

対してMISIAの『Everything』はBメロでは<また思い出して あの人と笑いあうあなたを>なんてブルー入ってるけど、サビでは<優しい嘘ならいらない 欲しいのはあなた>だよ。強ぇよ。

 

あぁもう、男って…。

 

“弱さ”をさらけ出すことができる“強さ”、“弱さ”を受け入れることができる“強さ”。この美しく気高い行為は、どうも女性の方が映える。

 

では、この“弱さを秘めた強さ”というコンセプトを表現するのに適した音楽性は何なのか。

ここでTWICEがたどり着いたのが、都会的なシャレオツ横ノリサウンドというわけだ。コンセプトから逆算して考えると、これほどピッタリな音楽性はないように思う。

 

バンドサウンドでは強すぎる。EDMでは明るすぎる。速いBPMでは“弱さ”が出ないし、コッテコテのR&Bでは、アイドルが歌うポップソングにならない。

そこで『SAY SOMETHING』で取り入れられた“シティポップ”をはじめとする、アーバンなシャレオツサウンドに白羽の矢が立ったのだ。

 

本アルバムのプロモーションでは、アルバムを表現する言葉として“ニュートロ”という単語が用いられていた。「New」と「Retro」を組み合わせた造語で、若者に「カセット」や「写ルンです」が流行したように、“古いものに感じる新しさ”を表現したような単語だ。

 

 

『I CAN’T STOP ME』でフューチャーされたのは1980年代のシンセサウンド

80年代と言えば、1979年に公平な女性の権利を目的に女子差別の撤廃を定めた多国間条約「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」が国連で採択され、女性の社会進出が世界的に進んでいった時代である。

 

そんな時代の“音”が本アルバムのコンセプトを表現する受け皿として選ばれたことに、なんだか大きな意味を感じてしまう。

 

凛とした“強さ”をたたえながらも、内に秘めた“弱さ”がにじみ出てくる音。

 

本アルバムが鳴らしている音に、そんなイメージを感じないだろうか。

 

楽曲間の共通性

このサウンドは、本作のコンセプトを表現する歌詞の世界とも非常に相性がいい。

人が悲しみや憂い、センチメンタルを感じるのは、絶対に“夜”だ。つまり“夜”は“弱さ”と繋がっている。あなたは本アルバムを聴いて、そんな“夜”の空気を感じなかっただろうか。

本ブログを読んでいる方の多くは、私を含め韓国語が分からない方がほとんどだと思うが、言葉が分からなくてもきっとサウンドやメロディから“夜”を感じたはずだ。それも決して暗い曲ばかりな訳ではないのに。

聴き手にそんな印象を与えるだけで、本作でTWICEが表現したかったことの半分は伝わっていると考えてもいいかもしれない。

そしてこのイメージが影響を与えたのか、それとも歌詞のイメージに合わせてサウンドを構築したのか、正確なところは定かではないが、実は本アルバムに収録されている13曲中、なんと7曲もの楽曲で“夜”という歌詞(英語表記のNight含む)が使用されている。

これはかなり異常な数だ。半数以上の楽曲で同様の単語が使われているのだ。ここまでいくと、偶然ではなく意図的なものを感じざるを得ない。

本アルバムが、意識的に“コンセプチュアル”な作品として制作されたことの証左と言えるのではないか。

 

 

楽曲間の共通性は、このシャレオツサウンドを構築するビートにもある。

本シャレオツサウンドの肝となっている音色、“フィンガースナップ”だ。日本語で言うなら“指パッチン”である。

『HANDLE IT』のBメロが分かりやすいだろうか。バンドサウンドならスネアが入る位置に“フィンガースナップ”が使用されている。この音色は、スネアに比べて芯のなく重心が軽い性質があるため、力強さや推進力が出ない代わりに、浮遊感のある小洒落た雰囲気を作り出すことができる。

本アルバムでは、この“フィンガースナップ”が“夜”という単語と同様に13曲中7曲に使用されている。(ちなみに「BETTER」「Scorpion」にも使われている)

ビートは、音楽性を決定づける最重要要素だ。この音色が『Eyes wide open』を構築する大きな要素の一つであると言えるだろう。

 

TWICEが失ったもの

<“禁断の果実”は、アダムとイヴに羞恥心という概念を与えたように、TWICEにも大きな変化を与えた。そしてその変化は、アダムとイブが楽園を追われたように、彼女たちにも相応の代償を与えたのだ。>

 

私は本記事の冒頭でそのように記載した。では、その代償とは何なのか。

 

それは、彼女たちにとって何よりも大切なONCE(ファン)を失うことだ。

 

アーティストは、ファンに求められることで成立する。つまり、そのアーティストに対してファンが“求めている要素”がなければ、アーティストとして活動していくことはできないのだ。

これまでTWICEが楽曲やビハインドで見せてきた姿は、アイドルのど真ん中を行く可愛く元気で明るい姿だ。その姿が支持されて、世界的な人気を獲得するに至った。

しかし本アルバムにおける彼女たちの姿は、弱く儚く、光に向かって懸命にもがく姿だ。この姿は、これまでファンがTWICEに求めていた姿とは真逆に位置するものである。

この変化についていくことができず、離れていってしまうファンがいることも大いに考えられるだろう。

 

そんなことは、彼女たちも百も承知だったはずだ。

それでもなお、変化することを選んだのだ。

暗さ、危うさ、悲しみ、怒り、憎しみ、憂い、嘆き、戸惑い、恐れ、迷い、嘆き…。

そんな自分の恥部を晒してまでも。

 

『Eyes wide open』

 

これだけの“弱さ”を詰め込んだアルバムは、そう名付けられた。

 

本アルバムのジャケットを思い出してほしい。

 

画像出典:TWICE、2ndフルアルバム「Eyes wide open」予告イメージ公開…クラシックな衣装に注目

 

3種類あるジャケットのどのバージョンにおいても、そこに収められた彼女たちから感じるのは“強さ”だ。

 

ジャケットを開いたら現れる円盤の中に無数の“弱さ”を秘めながらも、表に見える彼女たちは“強さ”をたたえてそこにいる。

 

なんてかっこいい姿だろう。なんて美しい姿だろう。

 

 

『Eyes wide open』

 

 

TWICEは、うつむいて目を閉じたりしない。

目を見開いて、前だけを見つめているのだ。

 

 

 

 

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