私立恵比寿中学「まっすぐ」は失恋ソングだ

私立恵比寿中学「まっすぐ」は失恋ソングだ

まっすぐな恋の歌

前作「スーパーヒーロー」から1年近くのインターバルを挟んで発表された「まっすぐ」。

「スーパーヒーロー」路線を踏襲する聴かせる歌モノ系だが、「スーパーヒーロー」を経たからこそ歌える、今までのエビ中楽曲にはない力強さを持つ直球のラブソングだ。

 

 

作詞/作曲:杉山勝彦

乃木坂46の名曲「君の名は希望」や前田敦子の名バラード「右肩」、そして何と言っても私立恵比寿中学の名刺代わりの1曲「仮契約のシンデレラ」を手掛けた爽やかイケメン、杉山勝彦 大先生による作品だ。

他にも「全力☆ランナー」や「禁断のカルマ」、「踊るガリ勉中学生」なんかでもお世話になっている。

ピアノアレンジが似合う美しいメロディの楽曲が印象的な作家というイメージだが、Mr.Childrenに多大な影響を受けているそうで、そんなところが曲に現れているのかもしれない。

 

横浜スタジアムで歌ってる桜井(和寿)さんを見て、僕はどんな人生を歩んでいくかを決めました

出典:杉山勝彦が語った作曲術と音楽家人生「Mr.Childrenのライブで僕の人生が決まった」

 

まずこの方を天才だと思ったのは、やっぱり「仮契約のシンデレラ」で。

だって冷静に考えてみて欲しい。何食べて生きていれば“仮契約のシンデレラ”って単語が思いつくんだ。しかも、この単語をあのサビのメロディーに組み込んじゃうなんて。。う~ん天才。

 

 

ということで、楽曲制作のスタイルが知りたくなり調べたところ、どうも“詞先”(詞を先に考えて、そこにメロディを付けている方法)で楽曲制作をすることが多いようだ。しかし「仮契約のシンデレラ」については曲先とのこと。

本来、詞先で楽曲を製作する杉山氏にとっては珍しく曲先で旋律ができたのだそうだ。

杉山勝彦「『君の名は希望』はサクッと降りてきた」 | Nogizaka Journal

 

あの軽やかなメロディを聴いて「う~ん、、、かりけいや~くのシンデレラ~♪ これだ!」も頭おかしい(褒め言葉)が、無の状態から「あ、“仮契約のシンデレラ”って良いテーマだな」ってなるのもやっぱり頭おかしい(褒め言葉)。大好き。

 

詞先にせよ曲先にせよ、天才と言わざるを得ない。

 

そんな杉山勝彦さんが産み落とした小さくも壮大な恋の歌が「まっすぐ」だ。

 

画像出典:まっすぐ 私立恵比寿中学

 

満員電車から始まる恋の物語

状況描写の1番

満員電車 サイアクな時間も
君と会える週末を想ってやり過ごす
ずっと友達の肩越しに見てきた
君に好きと伝えられた 私を褒めてよね

 

歌い出しのこのフレーズだけで、主人公の性別や年齢、性格まで分かっちゃうような素敵な歌詞だ。勝ち気だけど積極的にはなれない女の子って感じが伝わってくる。

最後の“よね”で性別が分かっちゃう感じ、日本語っていいなぁ。

 

週刊誌の中吊り またスキャンダル
“嘘つきな大人にはなりたくない”
2人だけの世界へゆきたい

 

この曲のテーマである「まっすぐ」の下地になるフレーズ。世間でも不倫だのなんだのでざわざわしてた時期だった。思春期の女の子なら当然考えるような、でも少し恋に恋してる感じの夢見がちなフレーズ。

 

いつわりの愛ばかり 騒がしい時代の中
まっすぐ君だけに ありったけ 愛を捧げよう

 

何と言っても歌割りが素晴らしい

 

前半部分<いつわりの愛ばかり 騒がしい時代の中>は全員歌唱。<まっすぐ君だけに ありったけ 愛を捧げよう>はソロ歌唱になっている。

普通ならサビは盛り上げるために全編全員歌唱。もしくは、前半をソロ歌唱、曲タイトルが入る後半のメインフレーズを全員歌唱するのが定番だ。

 

しかし、本楽曲では「まっすぐ」というストレートな言葉、突き抜ける高音メロディが本当に「まっすぐ」聴き手に刺さるように、あえて後半部分をソロ歌唱にしている。

このボーカルディレクションでこの曲の勝ちは決まった。

 

心理描写の2番

君の好みに 合わすヘア・アレンジ
そのまんまの わたしらしさじゃ
少し自信がない

 

このフレーズから読み解くに、まだ付き合って間もない頃のようだ。まだそんなに信頼関係が築けていないのか、ちょっと弱気になっちゃっている。それに呼応するように、ドラムのフレーズが1番と変わっている

1番では、「タンッ タンッ タンッ タンッ」と規則正しく力強いリズムを刻んでいます。週末のデートにワクワクしてる気持ちが乗っているようだ。

 

対して2番では、「ドン タンッ ド タンタ ドン タンッ ドタタタ」って感じで、ゆったりなビートになってる。不安な気持ちとリンクしている感じが面白い。まぁ妄想だが。

 

君の好きな“テイラー”また聴いてる
染まるのも悪くない
吊り革につかまってないと
揺られてしまうけど

 

Bメロ。<“テイラー”>は、“テイラー・スウィフト”のことだろうか。好きな人の好きな曲を聴く、好きなテレビを見る、好きなことをする、誰でも一度は経験あるのではないだろうか。

でも、まだ自信がないから吊り革につかまってないと揺られちゃうそうだ。“自分の意志”みたいなものがなくなっちゃうことを恐れている比喩だろう。冒頭で乗っていた<満員電車>を下地にしてのフレーズとなっている。

 

主人公は吊り革につかまりながら、心の吊り革にもつかまってるのだ

 

くぅ~。

 

大人への階段を 今 君と昇っていく
まっすぐ 1段ずつ 大切に踏みしめて

 

“大人になる”ってなんだろう。

色々あるとは思うが、“人を知る” “人を受け入れる”みたいなことも大人になるってことなのではないだろうか。

 

主人公は、好きな人の好みに合わせてみたり、好きな人の好きな曲を聴いてみたりすることで、他人を知り、染まるのも悪くないなんて思って、他人の価値観を知って、許容し、受け入れてみたりしている

 

これって立派な“大人になる”ということだ。

 

愛 願い 出逢い 重なる未来
1億人から 結ばれた 奇跡

 

真山りかさんの美声が響く壮大なCメロ。韻を踏み倒している。<未来><奇跡>、ここの歌声は圧巻だ。アレンジも相まってどこまでも届いていきそうな感じだ。

 

はじめてキスした刹那
生まれた意味を照らし出す

 

全員歌唱でバカみたいに壮大になって、三拍子パートに突入。さらにバカみたいに壮大に。この無駄な壮大さに、思春期の女の子のバカみたいに恋に恋してる感じが表れてるみたいで大好きだ。

 

そしてラストのサビへ。

<い・つ・わ・り・の・あい・ば・か・り>とリズムが強調されるアレンジがカッコよさと緊迫感を作り出し、そこに安本彩花さんの富士山の湧き水のように清らかで澄んだ歌声が<まっすぐ 君だけに ありったけ 愛を捧げよう>と最後の「まっすぐ」を届けてくれる。

 

君が好きなんだ
“もう少しくっついて好いかな?”

 

先程もCメロで活躍した真山の姉御が歌い上げる。

 

君のため生きてゆきたい

 

最後はぁぃぁぃ大先生の絶唱にて、小さくも力強い「まっすぐ」な恋の歌は幕を閉じる。

 

2人に関する妄想

ここからはただの妄想だ。聞き流して欲しい。

 

さて、曲中のこのカップル、続くと思うだろうか?

 

学生時代の恋愛なんて、そうそう続かない。多分この2人、別れますよ。彼女、ゴリゴリに舞い上がってる感じだし。何かのキッカケですぐ冷めそうだし。彼氏、調子乗ってテイラーとか聴いちゃって今風な感じだし、多分チャラいでしょ。

 

そのため、私はもはや失恋ソングとして聴いている

 

いずれ別れる2人の歌って感じだ。

 

でもその刹那感がたまらなくいい。歌詞の節々から思春期のなんかもう無敵な感じが超伝わってくる。その空気感が完璧にパッケージングされてる。

 

そしてそのことが本楽曲を、全アーティストの中でエビ中しか歌えない深みのある曲にしているのだ

 

思春期バリバリのリアル中学生がこの曲歌ってたら、もちろんそれはそれでいい曲だが、エビ中が歌うほどの深みが出ない。それではただの恋に恋する夢見がちな女の子の歌になってしまうからだ。

 

“大人が中学生を表現する”グループだからこそ、思春期の恋愛というものを俯瞰したような、それでいてみずみずしさを両立しているような本楽曲の刹那的な魅力が最大限に発揮されていると思うのだ。

 

彼女たちが歌うからこそ、<いつわりの愛ばかり 騒がしい時代の中 まっすぐ君だけに ありったけ 愛を捧げよう>という歌詞が、強い存在感と重み、そして神聖な美しさをともなって響くのだ。

 

だからこの曲は人の心を打つ。私はそう思う。

 

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