ROCKこそ人生!ギターが唸るアイドルソング5選①

ROCKこそ人生!ギターが唸るアイドルソング5選①

ロックとアイドルの邂逅

一般的には「アイドル」と対極にある存在として認識されている「ロック」という概念。

しかし「アイドル」が音楽性を表す言葉でない以上、アイドルとロックは同時に存在することができる。ましてや、青春の一瞬の輝きを閉じ込めたような「アイドル」という活動において、衝動的で刹那的なギターサウンドは相性が良いと言えるだろう。

自分たちで曲を作っていないからロックじゃない?大人にやらされている存在にロックを感じない?

うるせぇ。カッコよければいいだろ

ここでは存分にギターサウンドが楽しめる、ロックなアイドルソングを紹介する。

 

ゆくえしれずつれずれ「我我」

 

「だつりょく系げきじょう系(脱力・激情)」をコンセプトに2015年に結成されたアイドルユニット・ゆくえしれずつれずれ。

彼女達の2ndシングル『MISS SINS』に収録されているのが本楽曲『我我』だ。これで「我我(がが)」と読む。

 

公式ホームページをご覧いただきたい。受け入れられない人には一生受け入れられないが、私含む中二病をこじらせてV系や闇・病みな世界観から未だに抜け出せないお友達は冒頭のポエムでもう心を奪われていることだろう。

2ndシングル表題曲『MISS SINS』は、ピアノの響きが印象的な美メロ疾走チューンとなっており、およそアイドルソングとは思えない秀逸な楽曲となっているが、恐らくV系ファンは本作『我我』の方が好みなのではないだろうか。

 

なんといっても、このリフだ

メロディで楽曲を引っ張るこのリフが最高なのだ。

陰鬱でアングラ感があるのに1度聴いたら耳から離れないキャッチーさを持っているこのリフ。

裏打ちで疾走感を生み出すドラムや右チャンネルでハモりのリフを奏でている工夫も相まって、このキャッチーさを生み出しているのだろう。

初期のメリーやムック、9mm parabellum bulletといったバンドと同じ匂いを感じるリフだ。まさかアイドルでこの匂いを感じることができるなんて…。

作詞を務めたGESSHI類氏は本楽曲について下記のように語っている。

ゆくえしれずつれづれがLIVEでなにを表現しているか、という楽曲です。わかりやすいくらいこれがゆくえしれずつれづれのLIVEの側面です。と。

出典:ゆくえしれずつれづれ「MISS SINS」 ライナーノーツ

一見すると意味不明な歌詞だが、「ライブ」というヒントが与えられることでバラバラに見える歌詞が繋がり、全体像が分かるようななんとも不思議な体験ができる。

 

漢字に英語にカタカナに数字にと多種多様な表現で描かれている歌詞は、英語に訳すことなど到底不可能であり、このニュアンスをネイティブで理解することができる日本人に生まれて本当に良かった、なんてことまで考えてしまう。

<アー免、許皆伝?>なんて絶対訳せない。漢字の連打なのに歌っていて口が気持ちいいサビのハマり具合も絶妙だ。

 

WILL-O’「感情線染ヒカリエモーション」

 

“プリティッシュガールズロック”をコンセプトに活動する(現在は)4人組アイドルグループ・WILL-O’。これで「ウィロー」と読む。

恐らく「ブリティッシュ・ロック」と「プリティー」を掛けた造語だろうが、確かに本楽曲『感情線染ヒカリエモーション』も、アイドルソングらしい恋愛要素に印象的なギターリフが絡まったロックサウンドに仕上がっている。

 

チョーキングはなぜこんなに人の心を掻きむしるのだろうか

歌始まりのインパクトで耳を掴んだ直後、チョーキングでスタートするリフに感情をグッと惹きつけられる。

ドラムは流行パターンの裏打ちで、自然と身体がウキウキと動き出してしまうようにできており、そんな音像を黙々と8分で牽引するゴリッとしたベースも渋い。

 

そして本楽曲が優れているのは、聴き手を飽きさせない工夫が随所に見られる点だ

上述のイントロも、リフからそのままAメロになだれ込むのではなく、ドラムパターンを変えてオルタナ感のある音像のカッティングギターが映えるブレイクポイントが作られている。

そこからオンではなく、シンコペーションでAメロ始まることで無意識のうちにリスナーは惹きつけられるのだ。

2番Bメロでは、1番とは異なるトライバルなサウンドが突然登場する。

メロディは類似しているのにサウンドだけ異なるため、とても印象的で聴き手を飽きさせない。

また、1番にはあったCメロが無くなっており、Bメロからサビにそのまま突入する。突入直前には音が抜かれ、ベースとドラムだけが期待感を煽るフレーズを奏でる。

「来るぞ来るぞ」感を盛りたててお膳立てされてからのサビは最高に気持いい。

 

サビと言えば、ラストのサビの直前には新たにDメロが差し込まれる。これも一番盛り上がるであろうラストサビへのプロローグだ。

先程のサビ前はドラムとベースで盛りたてたが、今回はギターのみのフレーズだ。

いやー甲乙つけがたい。どっちがカッコいいかで一晩は論争できる

 

感情線染まる世界 あなたと二人歩いた
頼りない手のひら 何ができるのだろう

ラストサビのフレーズだ。

楽曲中で2度しか歌われない本フレーズだが、タイトルと繋がるフレーズであるためとても印象的に響く。

最初に登場した際にはソロ歌唱で歌われていたが、ラストサビではユニゾン歌唱になる。

Dメロ、ギターと完璧にお膳立てしてからのユニゾンサビの破壊力は凄まじい。

他にも様々な工夫が随所に隠されている。ただのロックチューンではない様々な試行錯誤と「どう楽しませるか」という聴き手への愛を感じる楽曲だ

 

ヤなことそっとミュート「BLUE」

 

2016年結成。「ヤなことだらけの日常をそっとミュートしても何も解決しないんだけど、とりあえずロックサウンドに切ないメロディーを乗せて歌ってみることにする」がコンセプトのアイドルグループ・ヤなことそっとミュート。

アイドルグループ名オブ・ザ・イヤーあげたいくらい素晴らしい語呂の良さ。ちなみに通称ヤなミュー。

 

そんなふざけたグループ名とは裏腹に、サウンドは本格派グランジ、オルタナサウンド。

猥雑ながらもまとまりのある音像、ラウドながらもセンチメンタルな音色は、確かにスマッシング・パンプキンズニルヴァーナ、日本ではナンバーガールなど、確かに90年代を席巻したオルタナティブ・ロックの空気感を現代によみがえらせている。

 

一方で上記のようなバンドたちがクセの強いヴォーカルを要していたのに対し、彼女たちの歌声はクリアでまっすぐだ

 

それがトラックとの対比により、演奏はより激しく、歌声はより清らかに聞こえる相乗効果を生み出している。

これが一般的なオルタナバンドと違うオリジナリティにも繋がっているのだ。

それもそのはず。制作チームの野望は大きい。

--ヤナミューのゴールとは言わないですけど、どういうところを目指してやっていこうと思っていますか?

慎 : 現実的な目標地点は最初に結構決めているんですけど、90年代のグランジ・ムーヴメントと掛けあわせたとしたら『ネバー・マインド』を作れたらなと思っていて。

出典:【デビュー作ハイレゾ版予約開始】グランジを手にしたアイドル、ヤなことそっとミュート初インタヴュー掲載

目指すところは、ニルヴァーナによる90年代ロックの金字塔『ネヴァー・マインド』とのことだ。

 

最高じゃないか。

多種多様なアイドルが無数に跋扈するアイドル界において、真正面からグランジ・オルタナを標榜し、確かな人気を掴んでいるアイドルはこれまで存在しなかった

そしてそのサウンドは、ロックバンドも真っ青のバッキバキ本格バンドサウンドだ。

 

改めて言う、最高じゃないか。

グランジロックムーブメントは、鬱屈としたティーンの感情を代弁し、世界規模で大爆発させたものだった。

本楽曲でも、絶妙な心理描写・情景描写によって誰しもが持つ感情をすくい上げてくれる。

きみの代わりなら 誰でもいるよって
笑えない friday
帰り道から 雷鳴の音 遠く光の方向へ

90年代、アメリカにニルヴァーナがいたように、日本にナンバーガールがいたように、2020年の日本にはヤなことそっとミュートがいて、鬱屈としたティーンを救うのだ。

 

タニヤマ : 女の子の声でオルタナを聴くんだったらヤナミューしかないという唯一無二の選択肢になりたいなと思います。メタルで女の子だったらベビメタだ、テクノで女の子だったらPerfumeだっていうふうに、これ以外考えられないっていうところにいきたい。それぐらいのオリジナリティを今後も出していきたいです。

出典:【デビュー作ハイレゾ版予約開始】グランジを手にしたアイドル、ヤなことそっとミュート初インタヴュー掲載

はい、着いていきます。

 

BILLIE IDLE®「LAST ORGY」

 

ショッキングなインタビューだった。

──ファンは「なぜ解散?」という疑問符が浮かんでいると思います。さっそくですがその理由について聞かせてください。
会社的にこれ以上の活動を続けることが厳しいとの判断です。それと自分の中では最初から5年をひとつの判断の目安ともしていました。始動してから5年になりますが、BILLIE IDLEは数あるプロジェクトの中でも、個人的にも思い入れがあり、会社もかなりの投資をしてきましたが、ビジネスとしてのBILLIE IDLEはそれをなかなか回収できず、この数年は社内で問題視されるようになっていました。

出典:BILLIE IDLEプロデューサー・NIGOが語るグループ解散の理由 – 音楽ナタリー 特集・インタビュー

 

2019年12月28日、BILLIE IDLE®はマイナビBLITZ赤坂でのライブをもって解散した。

解散ライブとはいえ、1,500人規模のライブハウスでライブができるグループが、投資をペイできないという至極真っ当だが残酷なビジネス上の理由で解散したのだ

現在バラエティ番組で引っ張りだこのファーストサマーウイカが所属する本グループは、BiSHが所属することで著名な音楽プロダクション・WACKの代表・渡辺淳之介氏とファッションデザイナー・NIGO®氏の共同プロデュースによって2015年に発足したグループであり、2018年からはNIGO®氏の単独プロデュースとなっていた。

Tシャツにデニムというアイドルシーンでは異質な出で立ちながら、パワフルな歌唱と完成度のか高い楽曲で確かな人気をつかんでいた彼女達の最後の楽曲が本作『LAST ORGY』だ。

 

ラストシングルにもかかわらず、エッジィなギターサウンドに乗せて歌われるのは「渇望」だ

デビューシングルであれば、その初期衝動を閉じ込め、これからの輝かしい未来へ向けた「渇望」を歌うことに不自然さはない。

通常のラストシングルであれば、これまでの道のりや苦労を振り返り、ファンへの感謝を歌うものだろう。

しかし本作に色濃いのはそんな感傷よりも、“先へ先へ”“前へ前へ”という未来へのポジティブな「渇望」だ。

鳴り響け 産声上げて
走り出した僕らは
時を超え 忘れた頃に
いつか会いに行くよ

上記の歌詞は、本作のラスト、つまりBILLIE IDLE®という“生き様”のラストを飾るフレーズだ。

涙を誘うのは転調が心を動かすからだけではない。最後の最後に放たれた咆哮が<産声>だからだ。BILLIE IDLE®は終わりを迎えたのかもしれない。

 

しかし、彼女達はここでまた生まれたのだ。

 

でんぱ組.inc「プレシャスサマー!」

 

3rdアルバム『WWDD』が個人的にピンとこず、ちょっとでんぱ組からは離れていた私が久々に彼女たちに触れたのは、ロック界の夏の風物詩「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2019」だった。

そこで聴いた本楽曲『プレシャスサマー!』に一気に持っていかれていしまった。

 

まず最初に思ったのは「相変わらず超でんぱじゃん」だ

メンバーの卒業や新メンバーの加入、それらにまつわるゴタゴタなど、一時期何かとマイナスな話題を振りまいてしまうことがあった彼女たち。

そんな紆余曲折があって、久々に見た・聴いたでんぱ組.incがあいも変わらずぶっ飛んでいたことがなんだか嬉しかった。

とんでもないスピードで疾走していく楽曲。早口かつ高音でまくし立てる歌詞。入れ替わり立ち替わりドタバタと忙しく全力で踊るメンバー。

そして、マイナスからスタートした彼女たちだからこそ放つことができる圧倒的にポジティブなバイブス。

 

間違いなくそこに存在するのは、かつて見ていたでんぱ組.incだった。

 

本楽曲最大の特徴は、なんといってもサビで巻き起こるハチャメチャ転調だ

多くの場合、盛り上げるための転調は「これから転調しますよ」という案内が挟まれるものだ。

例えば、J-POP史上最も有名な転調といっても過言ではないかもしれないMr.Children『Tomorrow never knows』では、<この長い旅路のどこかで>のあとに「来るぞ来るぞ」という“溜め”がある。

盛り上がりが来ることが事前に(無意識にでも)分かっているからこそ、溜めて溜めて感情を爆発させることができるのだ。

一方で本楽曲では、なんの前触れもなくやってくる。何が起きたのか一瞬分からなくなる。

本サビの場合、ここで新しいメロディを入れる必然性は別にないのだ。だって2番では、最初のサビだけでも綺麗に終わっているのだから。

なのに新しいメロディを持ってきて、ましてや転調までしちゃうのだ。

なぜだろうと考えた。なぜこんなことをするのだろうと。そしてすぐに答えは出た。

 

でんぱ組.incだからだ

プレシャスサマー!歌え踊れ
さあわいわい がやがや どったんばったん
珍事 爆笑 苦難超えて
ずいぶん遠くまで来たもんだ

あぁ、彼女たちはどこまで行くのだろう。まだまだ遠くまで行くのだろう。

なんせ結婚しているメンバーまでいるのだから。

 

行き着く先に素敵な景色が待っているといいな。

 

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