「振りコピ」じゃない方の「踊り」だよ
アイドルにおいて「踊り」というと「振り付け」というイメージが強いだろう。
そのためアイドルヲタクにとって「踊れる」といえば「振りコピ」ということになる。
しかし、アイドルソングにおいても、通常のダンスミュージックのように身体を揺らして音に身を任せたり、ゆるいビートに首を前後させてみたり、ぴょんぴょん飛び上がってみたりと肉体的に楽しめる楽曲は存在する。
ここではそんな「踊れるアイドルソング」を紹介する。
グーグールル「回路」
伝説的なアイドルグループ「BELLRING少女ハート」のメンバー・柳沢あやのを中心に結成されたグーグールル(なんだこの名前)。
アイドルソング的な可愛さが感じられた1stシングル『Caution!!』とはうって変わって、アダルティな魅力を発揮しているのが2ndシングルの本作だ。
吐息からスタートするトラックは、デトロイトテクノのように甘美な陶酔を与える。気怠いベースと美しいアコースティックギターとは対照的に炸裂するスネア。
時折り差し込まれるサンプリングボイス作る本格派な匂いと、彼女たちの拙い歌声とのギャップが妙に心地よい。
歌詞にはどこか官能的な言葉が並ぶ。
中指で好きにすりゃ
いいんじゃないのかな?って思うよ
かき回したがりでしょほら
「回路」という無機質な単語を、熱くドロドロとした蠱惑的な衝動の歌に合わせた空五倍子ことディレクター・田中 紘治のセンスに脱帽だ。
ビートだけが続く異様に長いアウトロは、「回路」が焼き切れたように終わりを迎えてしまう。
この楽曲の世界に取り込まれてしまったかのように、思わずもう1度再生してしまう中毒性は唯一無二だ。
福原遥「箱庭のサマー」
NHKの子供向け料理番組で「まいんちゃん」として一部の大きなお友達を中心に一世を風靡した彼女。
今や立派な女性に成長し、CMにドラマに声優にモデルにと各方面で大活躍。もはや「まいんちゃん」より「福原遥」の方が有名になりつつある。
大きなお友達の一人としては、嬉しくもあり少し寂しくもある今日この頃である。
その透明感のある声質を活かして、2019年に福原遥として歌手活動も開始。
これまでも歌手活動は行っていたが、それはあくまでも「まいんちゃん」としての活動であり、キャラクターを外した「福原遥」としてはこのタイミングでのデビューとなる。
本作はデビューシングル『未完成な光たち』のカップリングに収録されている楽曲だ。
こっちの曲の方がが好きだからMVもないけどこっちを紹介するのだ。
心に閉じ込めたある夏の思い出を「箱庭」とオシャレに表現し、ピッチカートのようにハネた音色が印象的な清涼感あるトラックの上を瑞々しい歌が跳ねるサマーチューン。
鈴の音色が緑豊かな田舎の夏の景色を思い起こさせ、全体を通しとても爽やかな雰囲気に仕立てられている。
楽曲の構成としてはEDMの定番を踏襲する、ブレイクダウン→ビルドアップ→ドロップといった構成になっているが、あくまでも要素として使用されており、ドロップで盛り上がるだけのEDMではなく、しっかりとしたサビを持つJ-POPとして作られている。
また、ドロップ部分もパリピが踊り狂うようなイメージではなく、田舎で子どもたちが水鉄砲でも持ってはしゃぎ回っているようなイメージが浮かぶのは、サビメロと同じヨナ抜き音階の日本的メロディーが奏でられているからだろう。
一方で、2度目のドロップでは歌詞に合わせて不安定で奇妙な音色が使われている。
夏の終わりを告げるように
ふたりの目にうつる花火
ぎこちない時間と
胸をちくりと刺した針
キレイなだけで終わらないのが夏であり、この楽曲の魅力でもあるのだ。
MIGMA SHELTER「TOKYO SQUARE」
いま最も合法的にブッ飛べるアイドルことMIGMA SHELTER。
There There Theres、グーグールルというだいぶアレなアイドルを擁する大クセ事務所・AqbiRecに所属する本グループもお聴きの通りだいぶアレだ。
ダンスミュージックの中でもブッ飛び要素が強いジャンル・サイケデリックトランスを堂々と掲げ、ライブをレイヴと称して日本を、いや世界を踊らせている彼女達。
YouTubeのコメント欄を見ても海外からのコメントが多数存在することがその証明だ。
「東京の夜」をそのまま音にしたような無機質なビートは、冷酷な表情を見せながらもしっかりと有機的に踊らせる。狂わせる。
ダンスに意味が生まれたのはいつからなのだろう。感情を表現するための手段になったのはなぜなのだろう。
この地球上で初めて踊った人間は、きっと何かを考えて身体を動かしたわけではないはずだ。
<心揺らすだけの dance>というフレーズを聴いて、そんなことを考えてしまった。
様々なバックボーンを持ちながらも、この大都会・東京に集まった人たち。
東京に潰されてしまわないよう精神的な摩耗を続け、段々と個性を失っていく。
アイデンティティを模索する東京の人々を<移民>と表現し、東京を<dance floor>と捉える本楽曲は、“踊らせる”ことだけ目的であるただのダンスミュージックで終わらない、泥濘とした様々な感情を与えてくれる。
はちみつロケット「ROCKET FUTURE」
リーダーでセンター。文字通りはちみつロケットの中心人物であった雨宮かのんが2019年6月に卒業し、6人体制となった彼女たち。その新体制の幕開けを告げるのが本楽曲『ROCKET FUTURE』だ。
ロケット打ち上げ直前の地鳴りを表現したようなイントロ。
そこから間髪入れず<飛び立とう あの空の向こう側へ ROCKET FUTURE>と新体制となった自分達を鼓舞するようなサビのワンフレーズが続く。思わず身体が動く16ビートで気分はウキウキ。
一方でAメロ・Bメロのメロディやアレンジはマイナーでクールな印象だ。どんどん大人っぽくなっていくメンバーの表情にもドキッとさせられる。
ちょっと前まで<てんしんらんまん ロ~ケット!!>ってはしゃいでたのに。すごいな女の子。
このマイナーアレンジは、全てサビへの布石だ。
SHAKY LUCKY BABY
今夜の未明
宇宙までFly Away
<Shaky Lucky Baby>だけでも気持ちいいのに、そこから<未明><Away>と<ei>で韻まで踏んでいく徹底っぷり。
こんなに気持ちよくさせるなんて作詞は加藤鷹ですか?
さらに本フレーズは、ワンフレーズずつメロディまで上がっていく。つまり聴き手の気持ちまで高揚させていく。
また、ここから新しい気持ちで芸能界を駆け上がっていく彼女たちの姿とも重なり、なんとも言えない高揚感を作り出している。
Aメロ・Bメロを抑えて抑えて作っていたからこそ、サビでの爆発力が生まれるのだ。
まるで火力を溜めて溜めて、一気に宇宙へ飛び立つロケットを楽曲の構造で表現しているかのようだ。
未来は待つもんじゃない
つかまえよう
ROCKET FUTURE
はちみつロケットの未来には、希望しかない。
はずだったのになぁ…。
Jewel「前へ」
ダンス&ボーカルアイドルの急先鋒・Jewel(ジュエル)。
もともとは「J☆Dee’Z」というグループ名で2010年より活動していたが、2019年にJewelへ改名。改名後の初のシングルとなったのが本作『前へ』だ。
バッキバキのダンスにクールな歌声、部分的に英語を混ぜた歌詞など実にavexっぽい楽曲だがavexではない。
Fairiesしかり、Dancing Dollsしかり、東京女子流しかり、ダンス&ボーカルみたいなこと言い出すとどうもドルヲタが引いていってしまうアイドル界隈だが(気持ちは分かる。なんかギャルいもんね)、かっこいい曲はかっこいいのだ。
本楽曲のグルーヴの気持ちよさは、トラックはもちろんのこと、メロディでも「踊らせること」に注力している点に理由があると思う。
オンタイムで音をはめるところ、シンコペーションで動きをつけるところ、特にサビではその双方を細かく駆使して思わず体が動いてしまう“ノリ”を作り出している。
この“ノリ”を視覚的にも表現する緩急のついたダンスは本当に美しい。
ダンスは門外漢なので専門的なところは分からないが、素人が見て格好いい、気持ちいいと思わせることが重要なのだ。
ピアノの音色が印象的なトラックも、少ない音数の中「水滴」のような音を印象的に使い、緊迫感を持たせながらも踊らせる力も持った独特なものに仕上がっている。
踊らせる“動”の力と美しい“静”の力が同時に存在する稀有な楽曲だ。
おわりに
いや~踊れる踊れる。
一口にダンスミュージックといっても、様々なジャンルのダンスミュージックをアイドルソングに取り込んでいる。
ライブハウスを主戦場にするアイドルだからこそ、フィジカルで楽しめる楽曲が強いのだ。
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