私立恵比寿中学「愛のレンタル」で愛は具象化される

私立恵比寿中学「愛のレンタル」で愛は具象化される

アイドルソングのセオリー

アイドルソングに求められる要素とは何なのだろうか。

 

当然、人によって様々だとは思う。「楽曲派」なる存在も生まれている現在のアイドルシーンでは特に細分化が進んでいるのだろう。しかし、あくまでも一般的に、いまだ大部分のオタクの総意として求められる要素はいくつか挙げることができるだろう。

 

まず「可愛い」。当たり前過ぎるくらい当たり前であり、アイドルソングにとって必要不可欠な要素だ。アイドルは可愛いのだ。

続いて「MIX・コール・ケチャが入れられる」。これも大事。アイドルソングにコール・MIXはあって当然。アイドルオタクはいつだって沸きたいのだ。

ほかには「明るい」。とても雑な括りになったが、オタクは暗い曲より明るい曲を聞きたいのだ。推しには笑顔でいてほしいのだ。その笑顔で我々は日常を忘れることができるのだから

 

まだまだあるとは思うが、大きくは以上のような要素がアイドルソングに求められているであろう項目である。

多くのアイドルファンは、アイドルソングに長いギターソロや高尚なアンサンブル、マニアックな洋楽オマージュといったいわゆる“音楽好き”と呼ばれる人々が好むような要素は求めていないのだ。

 

「個人的完璧なアイドルソングランキング」を作るとしたら、トップ3には食い込む楽曲にエイベックスが誇る超絶正統派アイドル・SUPER☆GiRLSの代表曲『女子力←パラダイス』がある。

 

 

メンバーの声が入っていない“曲だけ”の部分が異常に少ない構成

だって曲が始まって無駄なイントロなしにすぐ<Oh Oh Oh~>と一緒に歌えてしまう。また随所に挿入される“合いの手”も歌えてしまうし、コールも入れやすい。それぞれのメンバーが目立つようなソロパートも多く、しっかりと落ちサビもあり恍惚の表情でケチャをブチかませる。

MIXこそ入れられないが、あみたの<キミをGet chu>が超絶かわいいから大目に見てくれ。

 

ということで、アイドルソングに求める要素を追求していくと本楽曲のような形に行き着く。

あるいは、『言い訳Maybe』や『ポニーテールとシュシュ』など黄金期AKB48の楽曲はまさにアイドルソングへの需要に見事に応えている。というかAKB48が“現代アイドルソングの雛形”を作った、と言えるだろう。

 

 

 

一方で、そんなアイドルソングへの需要を完無視している楽曲が私立恵比寿中学の『愛のレンタル』だ。

 

“丁度いい”さじ加減

 

SHAKE! SHAKE!』がアウトロなしてスパッと終わったところに、またもやサビ始まりでスタート。隙間の多いリズムと適度に跳ねたビートがブラックミュージックの影響を感じさせる。

 

しかし過度にオシャレであったり、過度に本格派になったり、過度にむさ苦しくならず、しっかりとJ-POPとしてのブラックミュージック」になっているのは、速すぎず遅すぎない丁度いいBPMとエビ中の歌唱によるところが大きいだろう。

 

BPMで言えば、もう少し速くなってしまうとブラックミュージック感が出ず、このチルい空気感や程よくアダルティな雰囲気がなくなってしまう。一方で、BPMをもう少し遅くすると、本格感が出過ぎてしまい、J-POPとして成立しない恐れがある。

この微妙なバランスを見事に調整しているからこそ、確かなブラックミュージック感を保ちながらも、ポップソングに落とし込まれているのだ

また<踊ればいい>といった決めフレーズで音を抜いたり、Bメロでリズムパターンを変化させてスピード感を演出したりと、数々の小技を効かせていることも、本楽曲の絶妙さを担保している要因だ。

 

そしてエビ中の歌唱である。肩の力の抜けた、いい意味で投げやりに歌われるAメロ

軽く踏まれる韻と相まって、非常に心地よく響く。本箇所に顕著だが、全体を通しても声を張り過ぎず、脱ぎ過ぎない、という簡単なようで難しい声量・声色で歌われている。

こちらもBPMと同じく“適度さ”が重要で、パワフルに歌いすぎると本格的なR&Bになってしまい、ファルセットを多用して声量を抑えて歌うとおしゃれになりすぎてしまうのだ。(ちなみに、本アルバム5曲目『I’ll be here』では前者の、7曲目『シングルTONEでお願い』は意図的に後者のディレクションがなされている)

 

このBPMと歌唱の絶妙さが、本楽曲をとっつきやすいものにしていると言えるだろう。

 

なお私立恵比寿中学×ブラックミュージックということ自体は、そんなに珍しい組み合わせではない。

メジャー1stアルバム「中人」にはソウルミュージックをフューチャーした『中人DANCE MUSIC』があるし、4thアルバム「エビクラシー」にもタイトル通りゴリッゴリのファンクソング『制服“報連相”ファンク』がある。ディスコ調の『EBINOMICS』には本格的な黒人シンガー・オリヴィアさんまで登場しちゃっている。

 

これらの楽曲では、エビ中らしい茶目っ気の効いた歌詞とアレンジによってJ-POPとしての体裁を保っていたが、おふざけなしでしっかりと歌うブラックミュージック由来の楽曲は本作が初めてだろう。彼女達の技術的な成長と精神的な成長を考慮した、今だから歌える歌になっていると思う。

 

しかし、オタクの大好きなMIXを入れるタイミングも、コールを入れる間も存在しない。「オイ!オイ!」と拳を振り上げるパートもない。オタクはただただ、楽曲を聴くことしかできない。そして、なんとアウトロは約1分間もある。愛するメンバーの声を聴くことすらもできないのだ。

つまり本楽曲は、アイドルソングに求められる要素とかけ離れた楽曲になっている。

 

いまの私立恵比寿中学のモードというものが、伝わるような攻めた楽曲なのだ。

 

愛は何から生まれるのか

真山 別の取材でメンバーが「これは恋愛の歌だ」ってえ答えていて、私は「そうなんだ?」と思ったんですよ。「愛のレンタル」って毎日してるなと思うんです。それは恋愛だけじゃなくて、生きるうえでのテーマとも言える、人に優しくするという人間として生きるための初歩的な“愛”だと解釈していて。

出典:私立恵比寿中学「playlist」インタビュー|いろいろあった10周年、集大成のその先へ – 音楽ナタリー 特集・インタビュー

 

真山さんも上記のように語っているように、本楽曲は“愛”の歌だ。もっと言うと、愛を“具象化”した歌のように感じる。

 

『愛のレンタル』というタイトルからも分かるように、“愛”という形のないものをより俗物的なものに落とし込んでいる。

<愛していたいのに 消えてなくなってしまうな>という歌詞からは、自分の中に愛の絶対量があり、それがいつかなくなってしまうことへの不安が感じられるフレーズだ。そしてその愛を蓄えるための方法を、Aメロでは2種類挙げている。

 

「享受する愛」と「自己生産する愛」だ

 

劣等、葛藤、ぜんぶ他人事
たまにはママに会いたい
先生の言うこと(いいこと)
10年経って響いたぞ
アイ・ラブ・ユー&ミー

 

「享受する愛」では、ママに会うことで愛を蓄えようとしている。

“親の愛は無償の愛”とはよく言ったもので、お金を使わずにただ会うだけでも愛を受け取ることができるのだ。サンキューマッマ。唐突にママに会いたくなって、なんか可愛いように思えるが、実は手軽に愛を補給しようとしているのだ。打算的なやつめ。

 

「自己生産する愛」は、自分を愛することで、人の力を借りず自らの力だけで作り出す愛だ。

これはとても難しい。“自分を愛せない人間が他人を愛せるわけがない”なんて言葉も漫画やドラマでよく使われる言葉だが、そんな簡単なことではない。しかしこれをマスターすれば、手軽に自分の中の愛の量を増やすことができる。

この言葉は、“愛を量があるもの”として考えると確かに納得できる言葉だ。自分の中に愛がなければ、その愛を使って人を愛することもできないのだ

 

なぜに「踊る」のか

返してくれるなら
愛してみせるのに

 

あまり美しくない愛に思う。

 

無償の愛とは真逆の打算的な愛し方だ。まさに「レンタル」といった感じである。商品を貸す代わりにお金を払うシステムと同じで、「愛する代わりに、あなたも愛してください」という交換条件での愛だ。

 

さて、主人公は本当に相手を愛していると言えるのだろうか。

思い返せば、<夢の中で僕のこと探して?><甘えて欲しいのに><大袈裟に欲しがってほしいのに>と主人公は相手に求めてばかりだ。独りよがりの想いを相手にぶつけているだけに思う。

 

忘れないでね、忘れてしまったこと

 

グッと心に残る本フレーズも、なんだかメンヘラサイコパスの狂気的な響きになってくる。

 

そして愛の消耗を感じる主人公は「踊り」を求める。

 

「踊り」とは、とても身軽な行為だ

どんな道具も必要ない。究極音楽すらも必要ない。自分の身体ひとつあれば世界中のどんな場所でも楽しむことができる。

愛という媒介を通して、その貸し借りを通して繋がっていた主人公と相手(特定の個人とは限らない)だが、貸し借りという関係上、どちらかにその比重は重くなる。

しかし、「踊り」であればそこに上下関係は発生しない。そこにあるのは、ひとりとひとりの対等な関係だ

 

またもしこの「踊り」が、チークダンスや社交ダンスのように2人で踊る形態であれば、そこには対等な関係+思いやりが加わってくる。この場合、愛という媒介がなくなったことで、逆により健全な関係性を築いていけるようになりそうだ。

 

 

 

 

 

さて主人公は、どんな「踊り」に誘っているのだろうか。

 

 

そしてこの「踊り」は、何を比喩しているのだろうか。

 

 

聴く度に、自分の中での答えが変わってくるような不思議な魅力のある楽曲だ。もっと聴き込んで、自分なりの答えを見つけていきたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とかカッコつけてみたけど、真山さんのパフォーマンスがエロすぎて<愛の変態量>が貯まりまくりなんですけど!?

 

 

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