それはモーニング娘。史に残る事件
2019年8月10日、日本最大級のロックフェスティバル「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2019」にモーニング娘。’19が出演した。
しかも、ただ出演したわけではない。
ロッキン最大のステージ、約6万人のキャパを誇る「GRASS STAGE」のトップバッターとしての出演が決まったのだ。
画像出典:rockin’onフェス公式ツイッター
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これは、只事ではない。いや、マジでやばい。
この“ヤバイ”には2つの意味がある。
1つ目はもちろん、“喜び”のヤバイだ。
90年代後半~00年代前半までのいわゆる“黄金期”と呼ばれる時代を経て、パフォーマンス集団となった“プラチナ期”。そして、鞘師里保の加入により新たな路線へ舵を切った“カラフル期”。
そんな数多の時代のどこかで彼女達に出会い、憧れ、その扉を叩き、モーニング娘。となった今のモーニング娘。のメンバー達。
彼女達は、常に先人達と比べられながらも自分達の道を模索し続けてきた。
画像出典:モーニング娘。’19佐藤優樹「つんく♂さんイズムに勝るような子が入ってきて欲しい」【ハロプロ誕生20周年記念連載】
“新生モーニング娘。”
いつからかそんな呼ばれ方をされるようになった彼女達が、モーニング娘。史上最大規模のステージで歌うことができるなんて、こんな嬉しいことはない。
しかも昨年出演時の功績が認められて、満を持してのGRASS STAGEだ。
初出演だった昨年は、ロッキン3番目のキャパであるLAKE STAGEに登場した。
1曲目には“ロックフェス”という環境に合わせて、ロック的なダイナミズムを持つファンクナンバー『HOW DO YOU LIKE THIS JAPAN? ~日本はどんな感じでっか?~』をブチかまし、以降も代表曲と最新曲を織り交ぜたセットリストで見事にオーディエンスの心を掴んだ。
40分にも及ぶパフォーマンスのリアクションが、“入場規制”という分かりやすい結果で表れたのは本当に嬉しい事実だ。
LAKE STAGEのキャパは、約1万人。モーニング娘。のファンだけでこのフェスに1万人が集まるとは思えないので、他アーティストのファンが彼女達のパフォーマンスを観たいと思ってくれた、もしくはパフォーマンスを観て足を止めてくれたのだと思う。
そして今年だ。
なんとキャパ上では次の大きさにあたる約1万2千人収容のPARK STAGEをすっ飛ばし、メインステージのGRASS STAGEへ召集されたのだ。
この実力で勝ち取ったという物語性も相まって、“喜び”のヤバイへと感情が動いた訳である。
一方で、だ。
マイナスのヤバイも心に去来した。
“恐怖”のヤバイだ。
分かりやすく言えば「え?人集まんのかこれ」のヤバイだ。
まず大前提として「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」は、その名の通りバンド中心のロックフェスである。建て付けの段階で、アイドルであるモーニング娘。の出演は、必然的にアウェイとなるのだ。
しかし、この点は前回出演時に払拭したのでまぁいい。
問題は単純に人気だ。集客だ。
キャパは前回の6倍。そこまでの人を集めることができるのかということだ。
スッカスカの客席ほど悲しいものはない。またその光景は「モー娘。ってこんなもんか」というイメージを観客にも与えてしまう。何より、メンバーにそんな悲しいシーンを見せたくはない。
また不幸にも出番はトップバッターである。
フェスは全ての人が開演時間通りに集まるわけではない。好きな時間に来れば良いのだ。そうなると、トップバッターのパフォーマンスを観に来る人の母数が以降のアーティストより少ないのは明白なのである。
この出順も、我々を不安にさせた。
メインステージは、フェスの華だ。
当然、ビッグアーティストが名を連ねる。
参考までに、別日のトップバッターを見てみよう。
・8月3日 ゆず
・8月4日 欅坂46
・8月11日 ももいろクローバーZ
・8月12日 MONGOL800
ショ◯ベンちびりそうだ。
今のモーニング娘。を追いかけている人ほど、その集客力や世間的な人気、知名度は把握している。道重が抜けた今、メンバーの顔も名前も、最近の曲達も、世の中は誰も知らないのだ。
こんな状況が、我々を”恐怖”のヤバイに駆り立てた。
そんな色々な感情で震えていたロッキン2日前。
一筋の光が汚いオタク達を照らした。
歌姫の帰還だ。
モーニング娘。’19小田さくら活動再開についてのお知らせhttps://t.co/LpAPx9oFkd#morningmusume19
— モーニング娘。’19マネージャー (@MorningMusumeMg) August 8, 2019
今のモーニング娘。を見せるのに小田さくらの歌唱力を外すことはできない。
「頸椎椎間板症」の治療・リハビリのため休息をとっていた彼女が、一ヶ月ぶりに帰ってくるという知らせは我々を安心させてくれた。また、新メンバー加入前の“11人の集大成”を観られる、そして観せられることが嬉しかった。
何より、久々にかわいいかわいい超かわいいマジかわいい大好き激プリティな推しが見れるのが最高だった。
いよいよ当日
そんなこんなで迎えた当日。
遅れるわけにはいかないので始発で出発し、9:00頃には会場に到着。
まだまだ人もまばら。夏の日差しは雲に隠れ、涼しい風が通り抜ける中、みんな思い思いの時間を過ごしていた。
画像出典:筆者撮影
「ロッキンコラボのピカチュウTシャツ可愛いな」とか、ユニフォーム風の赤いTシャツ見ながら「運営久々にまともなグッズ作ったじゃねえか」なんて同行者とダベりながら過ごしているとリハがスタート。
『ジェラシージェラシー』のオケが流れて沸くオタク。
その一方で、この時点でもまだまだ人は集まっていない。いよいよ不安になってきたが、開演も近づいて来たので私も良きポジションに移動。
あとはスタートを待つのみとなった。
いよいよ開演
ロッキン名物、本フェスを立ち上げた株式会社ロッキング・オンの代表・渋谷陽一氏の挨拶が始まった。
ROCK IN JAPAN FESTIVALの歴史を語った後、下記のような言葉でモーニング娘。を紹介してくれた。
「去年のステージ、彼女たちは本当に鮮烈な印象を残してくれました。なにがすごかったかと言えば、彼女たちはロックフェスだからと言って、ロック仕様になったわけでなくて、いつも通りのパフォーマンスを行った。そしてあれだけの熱狂を繰り広げてくれたわけです。まさに、モーニング娘。をこのフェスは発見したわけです。」
ハロヲタからすれば「見つけるのがおせーよ!」なーんて思っちゃいますが、いやはや嬉しいお言葉。
なんとなく遠目で眺めていた人も、この紹介をキッカケに「渋谷陽一がそこまで言うならちゃんと観てやるか」なんて思ってくれた人もいたかもしれないので、案外トップバッターも悪くないのかも。
最高の紹介のおかげで会場のボルテージが上がる中、いよいよモーニング娘。のステージが始まった。
【セットリスト】
1. みかん
2. 気まぐれプリンセス
3. I surrender 愛されど愛
4. 恋愛レボリューション 21(updated)
5. シャボン玉
6. ザ☆ピ~ス!
7. 泡沫サタデーナイト!
8. LOVEマシーン(updated)
9. One・Two・Three(updated)
10. 青春 Night
11. Are you Happy?
12. わがまま 気のまま 愛のジョーク
13. What is LOVE?
14. ここにいるぜぇ!
フェスにおいて一番大事なのは“バランス感覚”だと思う。
アーティストは最新の楽曲を演奏したい。オーディエンスは知っている曲を聞きたい。自らのエゴと聴き手の需要、その最大公約数をうまく見つけてセットリストを組む必要があるのだ。
そして、フェスに出演することの最大の意味は“自己紹介”だと思っている。
「私達はこんな音楽をやっています」「私達はこんなキャラクターです」「ご興味ありませんか」
演奏、ダンス、立ち振る舞い、MC。
様々な手法を使って自らを紹介し、ファンになってもらうため、アーティストはフェスに出演してパフォーマンスに全力を尽くすのだ。
自分達のやりたい曲のみを演奏すれば、自己紹介はできるかもしれない。しかし、その自己紹介を聞いてくれる母数はとても少ないものになってしまう恐れがある。一方で、みんなが聞きたい曲だけを演奏すれば、オーディエンスに刹那的な楽しさを提供することはできるだろうが、果たしてその人達はファンになってくれるのだろうか。
この“バランス感覚”が、フェスでは重要な要素になってくる。
その意味で、今回のモーニング娘。’19のセットリストは完璧だったのではないか。
1曲目『みかん』は、ロックファンが中心の本フェスにおいて受け入れられやすい“8ビート”で疾走するロックナンバーだ。「オイ!オイ!」と叫ぶファンの声も盛り上がりを見せられるいいエッセンスになる。
しかし、この曲は会場のオーディエンスの為ではなく、モーニング娘。’19自身に向けて、自らを鼓舞する意味で1曲目に歌われたように思う。
メンバーもブログで触れていたが、本楽曲には下記のような一節がある。
何度も夢を見てきた
あきらめたりは出来ない
まさに本ステージのような景色を夢見て活動をしていたであろう彼女達には、とても刺さる歌詞だったのではないか。この曲から始めるのと始めないのでは、その後のライブへの気持ちの入り方が大きく変わるのではないかと感じる名選曲だったと思う。
そして気になる客入りだが、前方モニターに映った景色に唖然とした。
画像出典:【ライブレポート】モーニング娘。’19、ロッキン最大ステージが「LOVEマシーン」で一つになった瞬間
見事に人・人・人。
トップバッターにも関わらず、多くの観客がモーニング娘。を“見つけに”来てくれていた。
本当に嬉しかった。誇らしかった。
からの『気まぐれプリンセス』だ。これは予想外だった。
でも本選曲は、“音楽好き”にビンビンに刺さる選曲だ。
何を隠そうこの私も、買い物をしていてたまたま有線で流れた本楽曲に耳を奪われて、なんとか歌詞を聞き取り歌詞検索してモーニング娘。に辿り着き、プラチナ期の楽曲を漁りはじめた口だ。
ありがちな楽曲に飽きてきた音楽好きは、聴いたことのない音楽を求める。アイドルがインド音楽をバックに<魅惑のお尻>やら何やら歌っているなんて、そんな面白い曲は聴かずにはいられないのだ。
あの数万人の中に、確実にビビッときた人はいるはずだ。
そして3曲目は『I surrender 愛されど愛』。
メンバーの直談判によりセトリに加えられたという本楽曲は、ゴリゴリのロックナンバー。冒頭のリフだけでロック好きを振り向かせることは十分に可能だ。
しかし、だからといって正統派ではなく、リズムに歌詞にとどこかイカれている。<あり↑えっない>のブレイク部分もカッコいいんだかダサいんだか分からないし、もう意味わからない。
この3曲だけで十分に“自己紹介”はできている。
「あぁ~なるほど。モーニング娘。って変なグループなんだな。」
こう思わせられれば勝ちだ。
その後のブロックでは、知名度の高い楽曲でオーディエンスをしっかりと引き込む。
4. 恋愛レボリューション 21(updated)
5. シャボン玉
6. ザ☆ピ~ス!
7. 泡沫サタデーナイト!
8. LOVEマシーン(updated)
やっぱりみんなが知っている楽曲があるのは強いね。
会場が一気にホームになる。
画像出典:【ライブレポート】モーニング娘。’19、ロッキン最大ステージが「LOVEマシーン」で一つになった瞬間
そして後半戦。
会場を味方にした後に、しっかりと今のモーニング娘。を見せるバッキバキEDMゾーンに突入。この構成は上手い。
全盛期の楽曲で刹那的に懐古させるのではなく、その後にしっかりと繋げて、興味を持ってくれる人を増やすことができる素晴らしい流れだ。
余計なMCを挟まなかったのも、グルーヴを損なわない良い決断だった。
そしていよいよラストナンバー。
「私達は今……ここにいるぜぇ!」
反則だ。降参だ。
そうだ、この曲しかない。
ロッキンという夢の舞台、今まさに私達は“ここ”にいる。
ここで大観衆を前に歌っている。踊っている。
それだけじゃない。
「今のモーニング娘。なんて知らない」
そんなことを言う世間に向かって、
オラァ!なめるんじゃねー!私達を見ろぉおおおお!
私達はモーニング娘。として“ここ”に存在してるんだ!!!!
笑顔の裏でそう叫んでいるように聞こえた。
モーニング娘。’19は、ロッキンという大舞台でしっかりと「モーニング娘。’19」を見せてくれた。
この日、この時、この場所に自分がいたことを誇りに思う。
来年も同じステージで、モーニング娘。’20を見れることを切に願う。
だって、確かに彼女達は“眩しい朝のチャンス”を掴んだのだから。